コラム
交通事故の過失割合の修正要素とは
交通事故の過失割合には、「修正要素」があります。
修正要素による修正が認められる場合、基本となる過失割合が修正されて、お互いの過失割合が変わります。
正しく過失割合を算定するには、修正要素について理解しておく必要があります。
今回は、交通事故の過失割合の修正要素について、京都の弁護士が解説します。
交通事故に遭われた方は是非参考にしてみてください。
1 過失割合の修正要素とは
(1)過失割合と過失相殺
交通事故の過失割合とは、交通事故の発生に対する当事者それぞれの責任の割合です。
たとえば、加害者と被害者の過失割合が「80%:20%」「60%:40%」などとなり、双方の割合を足すと100%になります。
損害賠償の際には、こちらの過失割合の分、相手に請求できる金額が減額されます。たとえば、100万円の損害が発生していても、被害者の過失割合が20%であれば請求できる金額は80%になってしまいます。
このような過失割合による減額に関するルールを「過失相殺」といいます。
過失相殺がされると、相手から受け取ることができる賠償金の額が減ってしまうので、交通事故被害者にとって、過失割合や過失相殺は非常に重要といえるでしょう。
(2)過失割合には基準がある
交通事故の過失割合には一定の基準があります。
個々の事故態様に応じて、裁判所が参考とする過失割合が決まっているのです。
示談で解決する際にも、基本的に過失割合の基準に従います。
(3)修正要素とは
過失割合の基準には、基本の過失割合と修正要素があります。
基本の過失割合は、その事故態様において適用される基本的な過失割合です。
一方、修正要素は、個別的な事故の特徴を反映して、より適切に過失割合を算定するための事情です。
基本の過失割合が高くても修正要素が適用されると最終的な過失割合は減って、相手に請求できる金額が大きくなるケースが少なくありません。
被害者にとって、修正要素を正しく当てはめることは、極めて重要といえるでしょう。
2 修正要素の例
よくある修正要素として、以下のようなものがあります。
(1)スピード違反
一方がスピード違反していると、違反した車両の過失割合が上がります。
(2)歩行者が子どもや身体障がい者、高齢者
自動車と歩行者が接触した事故の場合、被害者が子どもや身体障がい者、高齢者などであれば被害者の過失割合が下がります。
(3)事故時間が夜間
事故時間が夜間の場合、車はライトをつけているので歩行者側からは発見しやすくなりますが、車からは被害者を認識しにくくなります。
そこで、車両側の過失割合が下がります。
(4)事故現場が住宅地
事故現場が住宅地の場合、歩行者がどこから出てくるかわからないので車は通常以上に注意して運転しなければなりません。
そこで、車側の過失割合が上がります。
(5)事故現場が幹線道路
事故現場が幹線道路の場合、車は歩行者が出てくるとは考えないものです。反面、歩行者としてはより注意を払って横断すべきでしょう。
そこで、車の過失割合が下がって歩行者の過失割合が上がる可能性があります。
(6)著しい過失
著しい過失とは、通常想定されている程度を超えるような過失です。
たとえば、脇見運転等の著しい前方不注視、著しく不適切なハンドルブレーキ操作、時速15キロメートルを超える速度違反などが該当します。
著しい過失があると、その車両の過失割合が上がります。
(7)重過失
重過失とは、故意にも匹敵するほどの重大な過失です。
酒酔い運転や無免許運転、居眠り運転などが該当します。
重過失があると著しい過失以上に該当車両の過失割合が上がります。
3 修正要素を確認する方法
事故ごとの正しい修正要素を確認するには、自分で本を調べる方法と弁護士に相談する方法等があります。
(1)自分で本を調べる方法
過失割合に関する法的な考え方は「判例タイムズ」という法律雑誌の別冊特集にまとまっています。
その本を買い求め、自分で事故状況に当てはめて正しく検討すれば、修正要素を確認できるでしょう。
(2)弁護士に確認する方法
自分で本を見ても判断を誤ってしまう可能性があります。
そこで、より確実なのは弁護士に相談し、過失割合を算定してもらう方法といえます。
弁護士であれば事故の状況をもとに基本の過失割合と修正要素を適切に認定できます。
弁護士に相談すれば、自分で本を買ったり読み解いたりする必要もなく手間がかからないので、基本的にはこちらの方法で修正要素を確認するのが良いでしょう。
4 過失割合を定めるときの注意点
交通事故の過失割合を定める際、被害者が自分で保険会社と示談交渉していると、通常は保険会社側から過失割合の提示があります。
この場合、必ずしも適切な修正要素が適用されていないケースも多いので、鵜呑みにしないように注意しましょう。
ときには、被害者側の過失割合が高めに算定されている事例もあります。
そのまま合意すると、受け取れる保険金が減額されてしまう可能性があります。
示談交渉で保険会社から過失割合の提示があったら、なるべく早めに弁護士へ相談しましょう。
もし、保険会社から提示された過失割合が不当であれば、話し合って再度取り決めをやり直すことも可能です(ただし示談が成立する前の段階で相談する必要があります)。
京都の益川総合法律事務所では、交通事故の被害者を積極的にサポートしております。
過失割合や修正要素について疑問がある場合にはお気軽にご相談ください。
不倫の慰謝料請求を弁護士に依頼するメリット
夫や妻が不倫した場合、不倫相手や配偶者本人に慰謝料請求できます。
慰謝料請求は、自分自身で行うよりも、弁護士に依頼した方が効率が良く、有利に解決しやすいというメリットがあります。
相手と直接話さなくても良いので、ストレスも軽減されるでしょう。
今回は、不倫の慰謝料請求を弁護士に依頼するメリットをお伝えします。
弁護士に相談しようかどうか迷われているという方は、参考にされてください。
1 証拠について相談できる
不倫の慰謝料請求をするときには、証拠を持っているか否かが重要です。
特に、「配偶者と不倫相手の肉体関係」をある程度証明できないと、慰謝料請求に応じてもらうことが難しくなります。
もっとも、ご本人ではどういった証拠が有効なのか判断しがたいケースも多いでしょう。
弁護士に相談すると、どのような証拠が必要であるかについて、具体的にアドバイスを受けられます。
証拠不足のために慰謝料請求に失敗するというリスクを抑えられるのは、大きなメリットとなるでしょう。
2 相当な慰謝料額を設定できる
不倫の慰謝料請求をするとき、「具体的にいくらの慰謝料額を請求すれば良いのか?」と迷ってしまう方が少なくありません。
不倫の慰謝料額には「相場」があります。相場からあまりにも外れた金額を請求するのは非現実的です。
基本的には、相場を知った上で請求額を定めるのが良いでしょう。
ただし、示談交渉の場合、相場とおりの金額にしなければならないわけではありません。
相手さえ了承すれば、相場より高い金額にしても良いですし、こちらが了承すれば、低い金額にすることもできます。
弁護士に相談すると、個別の事案に応じた妥当な請求額を設定できるというメリットがあります。
3 不倫相手を調査できる可能性がある
配偶者に不倫されたとき、不倫相手がどこの誰であるかがわからないケースが多くあります。
その場合、まずは不倫相手の氏名や住所などの情報を調べなければなりません。
もっとも、個人では不倫相手の情報を調べるのは困難でしょう。
弁護士であれば、相手の電話番号や車のナンバーなどから不倫相手を特定できる可能性もあります。
不倫相手の調査ができる可能性がある点も、弁護士に依頼するメリットといえるでしょう。
4 時間や労力を減らすことができる
不倫相手へ慰謝料請求を行うについては、大変な労力が必要とされます。
まずは慰謝料を請求する書面を作成しなければなりません。
相手に書面を送った後は交渉を行い、合意書も作成する必要があります。場合によっては、合意の内容を公正証書にしておく必要性もあるでしょう。
自分自身ですべてに対応しようとすると、膨大な労力と時間がかかってしまいます。
弁護士に依頼すれば、請求書の作成や相手方との交渉、合意書の作成などを任せることができます。
ご自身の貴重な労力や時間を減らすことができるのも、弁護士に依頼するメリットとなります。
5 有利な条件で解決しやすくなる
不倫相手に慰謝料請求をするときには、できるだけ有利な条件で解決したいものです。
もっとも、自分で交渉すると、必ずしもうまくいくとは限りません。
特に、相手が弁護士に依頼すると、相手の弁護士から言いくるめられて、不利な条件で和解してしまうケースが多々あります。
そんなときには、こちらも弁護士をつけましょう。
弁護士が交渉すると、ご自身で対応するよりも有利な条件で解決しやすくなるからです。
弁護士の活動により、ご本人が期待していた以上に慰謝料を獲得できるケースも少なくありません。
有利な条件で解決しやすくなる点も、弁護士に依頼するメリットの1つです。
6 ストレスを減らすことができる
不倫の慰謝料請求をするときには、大変なストレスがかかるものです。
相手からの返答を受けるたびに精神的ダメージを受ける方が少なくありません。
相手が真剣に対応しなかったり、開き直って「払わない」などと言ってきたりした場合にもストレスになるでしょう。
弁護士に依頼すると、相手とのやり取りは弁護士がすべて行うのでストレスが大きく軽減されます。
慰謝料請求に疲れてしまった場合や自分で相手と直接やりとりしたくない場合、早めに弁護士に依頼しましょう。
7 相手が支払わない場合も対応できる
不倫相手によっては、慰謝料請求をしても「払わない」と開き直るケースがあります。「不倫なんかしていない」と言われて「不倫を否定される」事例も少なくありません。そんなときには、訴訟をして慰謝料請求する必要があります。
もっとも、ご自身で訴訟を提起することは難しいでしょう。
弁護士に依頼すると、示談が決裂して訴訟を提起する段階になっても安心です。
訴訟を避けるために、無理に不利な条件で示談に応じる必要もありません。
弁護士に依頼すると、相手が支払わない場合にも効果的に対応できるメリットがあります。
8 差し押さえがやりやすい
訴訟で判決が出たり慰謝料の合意書を公正証書にしたりしていると、相手が払わないときに、相手に差押えの対象となる財産がある場合には、強制執行(預金や給料などの差し押さえ)ができます。
もっとも、法律知識がなければ、どのように差し押さえを進めてよいかわからない方も多いでしょう。
弁護士に依頼すると、スムーズに差し押さえができて不払いとなった慰謝料を回収しやすくなります。
差し押さえがやりやすいことも、弁護士に依頼するメリットの1つです。
京都の益川総合法律事務所では、不倫の慰謝料請求についても取り扱ってきました。配偶者に不倫されてしまったという方は、お気軽にご相談ください。
弁護士の交渉により交通事故の過失割合を40%から20%に下げることに成功した事案【解決事例】
・キーワード
交通事故、物損、過失割合、示談交渉
・ご相談内容
ご依頼者は、自動車で走行中、後方を走行していたバイクがご依頼者の自動車を右側から追い越そうとして衝突してきたため、ご依頼者の自動車に損傷を受けました。相手方保険会社より、ご依頼者の過失割合について40%と提示されたところ、事故状況等をふまえて納得がいかないということで、当事務所にご依頼されました。
・当事務所の対応及び結果
受任後、相手方保険会社に対して、過失割合を40%とする根拠について詳細に聴き取りをしました。その根拠について、事故状況と照らして不合理である部分を指摘するとともに、ご依頼者の心情についても丁寧に説明を行い、粘り強く交渉して過失割合の引き下げを求めたところ、最終的に20%に引き下げることに成功しました。
・コメント
事故状況について、ドライブレコーダーなどの証拠が存在せず、ご依頼者のご希望を実現できるかについては難しい見通しがあった事案でした。弁護士の見通しについても丁寧にお伝えしたところ、ご依頼者からは、このまま示談するのは納得ができないので、もし、結果的に過失割合の引き下げができなかったとしても、お願いしたいと言って頂き、ご依頼を受けました。
保険会社との示談交渉では、ご本人から事故状況について丁寧な聴き取りを行ったことで、相手方保険会社の過失割合の根拠について、不合理である部分を正確に指摘することができ、最終的に過失割合を40%から20%に引き下げることに成功しました。
ご依頼者は、本件の難しさを理解してくださっていたため、過失割合の引き下げに成功したことについて、大変お喜びになり、「依頼して良かったです。」という言葉を頂きました。
交通事故の過失割合については、過去の判決等の蓄積によって定められた基準が存在します。過失割合に納得がいかない場合、この基準を正確に把握し、基準を修正する要素の有無についても検討することが必要となりますが、ご自身でこれを行うことは難しいように思います。
本件のご依頼者のように、過失割合について納得がいかない方は、ぜひお気軽にご相談ください。ご相談頂いたからといって、ご依頼を強制することは一切ありませんので、安心してご相談頂ければと思います。
※事件の内容については、特定できない程度に抽象化しています
交通事故の過失割合については、こちらのページで詳しく解説しています。
相続トラブルの解決を弁護士に依頼した方が良い理由
相続トラブルが発生したら、できる限り早い段階で弁護士へ依頼しましょう。
自己判断で対応してしまうと、トラブルが拡大するリスクがあります。
今回は、相続トラブルの解決を弁護士に依頼すべき理由をお伝えします。
- 遺産分割協議がまとまらない
- 預金を使い込まれた(使い込んだと言われている)
- 遺言書の有効性を争いたい(争われている)
- 遺留分侵害額請求をしたい、された
上記のような状況に陥った方は、ぜひ参考にしてみてください。
1 適切な解決方法がわかる
遺産相続時に発生するトラブルにはさまざまなものがあります。
- 遺産分割協議のトラブル
- 遺留分侵害額請求のトラブル
- 遺言書の有効性に関するトラブル
- 遺産の範囲に関するトラブル
- 相続人の地位に関するトラブル
- 預金使い込みに関するトラブル
巻き込まれてしまえば、貴重な労力も時間もとられますし、精神的ストレスも軽くはありません。
早期に解決するのが得策といえるでしょう。
ただし、ひと言で「相続トラブル」といっても、それぞれ適切な対処方法は異なります。
法的な知識がない状態では、どういった状況でどのような対応をすれば良いか判断しにくいでしょう。
間違った対応をしてしまうと、ご自身の意向に沿った解決にはつながりません。
弁護士に相談すれば、状況に応じた適切な解決方法をアドバイスしてもらえるので、直接的に解決に向けて進んでいけます。
状況に応じた最適な解決方法がわかる点は、弁護士に相談・依頼する大きなメリットです。
2 感情を抑えてスムーズに解決しやすい
相続トラブルでは、どうしても当事者が感情的になりやすい傾向があります。
相続人同士が親族だからという点が大きいでしょう。
弁護士が間に入れば当事者同士で直接話し合う必要がありません。
弁護士が間に入ることで、当事者が直接的に感情をぶつけ合うことがなくなるので、落ち着いて話をしやすくなり、余計ないさかいを避けて解決しやすくなるというメリットがあります。
3 労力と時間を節約できる
相続トラブルに対応するには、大変な労力と時間がかかります。
知識がなければ、まずは相続に関する法律や税務上の取り扱いを調べなければなりません。
相手と話し合ったり、書面を作成したりする手間も発生するでしょう。
弁護士に依頼すれば、弁護士が相手と話をしますし、必要な作業はほとんど任せられます。
貴重な労力や時間を別のことに割けるのも、弁護士に依頼する大きなメリットとなります。
4 ストレスがかからない
相続トラブルへの対応は非常にストレスのかかるものです。
たとえば、遺産分割協議で相手ともめてしまったら、相続のことを考えるだけで気分が滅入ってしまうという方も少なくありません。
弁護士に対応を依頼すると「法律の専門家が味方になってくれている」という安心感を得られます。
自分で直接対応しなくてすむことから、ストレス軽減につながるでしょう。
遺産相続トラブルが精神的ストレスとなっている方も、早めに弁護士に任せるのが得策です。
5 有利に解決しやすくなる
遺産相続トラブルが発生した場合、どのような解決方法になるのかが重要です。
できれば自分にとって有利な条件で解決したいと考えるでしょう。
もっとも、法的な知識がない状態で対応しても、良い条件で解決できるとは限りません。
自分なりに考えて決断した内容が、後になって、自分にとって最適な解決ではなかったことが発覚するという可能性もあります。
弁護士に依頼をしていれば、将来を見越して「ベストな選択」ができますし、相手方との交渉も有利に進めやすいものです。
より良い選択をして、後悔をしない解決を実現するためにも、ぜひ弁護士に依頼しましょう。
6 調停、審判や訴訟対応も安心
相続トラブルが悪化すると、調停や審判、訴訟などの裁判所の手続きが必要となってしまいます。
これらの裁判手続は複雑なので、自分自身では対応できない方も多いでしょう。
弁護士に依頼していれば、相手との協議や示談交渉などが決裂して審判や訴訟になっても安心です。
7 遺産相続トラブルを弁護士に依頼すべき状況
以下のような状況に陥ったら、遺産相続問題を弁護士に相談しましょう。
- 相続人調査や遺産調査で手間取っている
- 遺産相続の流れがわからない、何から手を付けてよいかわからない
- 遺言書が無効だと思う
- 相手が弁護士をつけたので困っている
- 遺産分割協議で他の相続人と合意できない
- 不公平な遺言や贈与があったので遺留分侵害額請求をしたい
- 相続放棄や限定承認をしたい
- 被相続人の生前や死後に一部の相続人によって預金が使い込まれた(使い込んでいないのに使い込まれたといわれている)
8 相続に関する情報はこちら
こちらに遺産相続に関する情報をまとめていますので、よければ参考にしてみてください。
9 遺産相続を相談する弁護士の選び方
遺産相続トラブルを相談・依頼するなら、相続に力を入れていて、過去の相談・解決実績も高い弁護士を選びましょう。
京都の益川総合法律事務所では、遺産分割協議や遺留分侵害額請求など、相続関係の事件に力を入れて取り組んでいます。
ともに悩み、ともに解決策を考えて、あなたに最適な選択をするお手伝いをします。
相続トラブルにお困りの場合には、お早めにご相談ください。
高額所得者の養育費、婚姻費用について
年間の給与額が2000万円、あるいは自営収入が1567万円を超える高額所得者の方が養育費や婚姻費用を負担する場合には、養育費や婚姻費用を算出する際に一般的に用いられる算定表の上限額を超えるため、算定表から養育費や婚姻費用の金額が明らかになりません。
養育費や婚姻費用を請求する側もされる側も、正しい算定方法を押さえておく必要があります。
今回は、高額所得者の養育費や婚姻費用についての法的な考え方を、京都の弁護士が解説します。
離婚や別居を検討している方や交渉中の方はぜひ参考にしてみてください。
1 養育費や婚姻費用の算定表には上限がある
一般的に、養育費や婚姻費用を計算する際には、算定表を用います。
算定表とは、お互いの収入額や子どもの人数、年齢に応じて妥当な婚姻費用や養育費の金額をまとめた表です。
ケースごとに算定表にあてはめると、たいていの事案で適切な養育費や婚姻費用の金額を算定できます。
ただし、養育費や婚姻費用の算定表には「上限額」があります。
上限を超える収入を得ている場合、算定表をあてはめて適切な養育費や婚姻費用を算定できません。
具体的には、給与所得者の場合には2000万円、自営収入の場合には1567万円が上限の金額となっています。
2 算定表を超える場合の考え方
養育費や婚姻費用の算定表を超える収入を得ている場合、いくらに設定するべきなのでしょうか。
この問題については、一律の解決方法はありません。
家庭裁判所でも事案に応じた個別的な対応がとられています。
以下のような方法をとるケースが多数です。
(1)算定表の上限とする方法
支払義務者の収入が算定表の上限額を超える場合、基本的には「上限額」を用いるべきという考え方です。
収入が増えたからといって、生活費や子どもにかける費用が無尽蔵に増加し続けるわけではないためです。
年収2000万円程度の場合の養育費が払われれば子どもの養育には十分足りるでしょうし、生活にも困らないでしょう。
この考え方であれば、相手と話し合ったとき、算定表の上限額を採用して養育費や婚姻費用を取り決めて解決できます。
(2)基礎収入割合を下げて個別計算する
家庭裁判所で上限額を超える養育費や婚姻費用を定める際、事情に応じて個別計算するケースもよくあります。
その場合、支払義務者の「基礎収入割合」を一般的な事例より減額し、金額が高くなりすぎないように調整します。
基礎収入割合とは、養育費や婚姻費用の基礎となる部分の割合です。これを減らすことにより、収入が上がったからといって養育費や婚姻費用が無尽蔵に増えていかないように調整できるのです。
ただし、この方法でも上がり方が緩やかなだけで、収入が上がると養育費や婚姻費用が高額になることに違いはありません。
妥当な養育費と婚姻費用の金額はこれまでのご家族の生活状況や子どものおかれた状況などによっても異なります。迷ったら弁護士まで相談しましょう。
3 相手に支払いを求める方法
高額所得者へ養育費や婚姻費用を請求するときには、「基礎収入割合」を減らしてでも個別計算した方が金額は上がります。
請求側としては、できるだけ個別計算を求めるのが得策といえるでしょう。
もっとも、養育費や婚姻費用の計算は簡単ではありません。
自分で計算すると間違ってしまう可能性も高いので、個別計算した金額を払ってほしいなら、弁護士へ依頼するのがよいでしょう。
4 支払い請求を受けたときの対処方法
年収2000万円を超える高額所得者が養育費や婚姻費用の支払いを求められたとき、相手の言ったとおりの金額を払うべきではありません。
相手は過大な請求をしている可能性があるためです。
相手に弁護士がついていても、養育費や婚姻費用の金額を減額できるケースが少なくありません。
自己判断で請求に応じる前に、弁護士までご相談ください。
5 高額所得者が弁護士に依頼するメリット
高額所得者の離婚を弁護士に依頼すると、以下のようなメリットがあります。
(1)婚姻費用や養育費を適正にできる
1つは、婚姻費用や養育費の金額を適正に計算できることです。
ご自身で対応すると、高額になりすぎたり、反対に安くしすぎたりして不利益を受けるリスクが発生します。
不利益を避けるため、弁護士へ依頼するのがよいでしょう。
(2)財産分与を適正に算定できる
高額所得者の方は、財産分与の金額も高額になりがちです。
当事者同士でもめてしまい、話し合いが難しくなるケースも多いでしょう。
弁護士に依頼すると、法律の考え方に従って財産分与額も正しく計算できます。
払いすぎや不当な減額を防げるのはメリットといえるでしょう。
(3)ストレスの軽減
離婚問題に対応するのは非常にストレスのかかる作業です。
弁護士に任せてしまえば、自分で直接相手方と交渉する必要がないのでストレスも軽減されます。
忙しく働いている方の場合、交渉の手間や時間を削減できるメリットも大きくなるでしょう。
京都の益川総合法律事務所では、離婚案件に力を入れて取り組んでいます。
当事務所は、1983年の創業以来、年収2000万円を超える高額所得者の離婚についての事件についても取り扱ってきており、専門的な知識や対応スキルを有しています。
養育費や婚姻費用、財産分与などにお困りの方がおられましたら、お気軽にご相談ください。
高額所得者と離婚するときの知識については、こちらのページで、高額所得者との離婚の解決事例については、こちらのページで詳しく解説しています。
交通事故の素因減額とは
交通事故に遭い示談交渉を進めていると、保険会社から「素因減額」を主張されるケースが少なくありません。
素因減額とは、被害者に身体や精神の疾患があって損害が拡大した場合、賠償金額が減額されることをいいます。
ただし、保険会社の言い分は常に正しいとは限りません。素因減額すべきでないケースにおいても減額を主張されるケースも多々あります。
今回は、交通事故の素因減額がどういったケースで認められるのか、減額を主張されたときの対処方法をお伝えします。
1 素因減額には2種類がある
素因減額は、被害者の身体や精神に原因があって損害が拡大した場合において、被害者にも責任を負わせるために賠償金を減額することです。
具体的には以下の2種類に分かれます。
- 身体的な疾患や既往症がある(身体的素因)
- 性格や精神疾患などがある(心因的素因)
それぞれについての考え方や典型例をみてみましょう。
2 身体的素因でよくある事例
(1)椎間板ヘルニア
被害者に椎間板ヘルニアがあると、保険会社から素因減額を主張されるケースが多々あります。
椎間板ヘルニアとは、背骨にある「椎間板」という組織の一部が飛び出してしまい、手足などに痛みやしびれが出る傷病です。
交通事故以外の日常の動作や加齢によっても生じますが、椎間板ベルニアがある方の場合、追突事故などに遭った際の被害が拡大するケースが少なくありません。
そこで、椎間板ヘルニアがあると、保険会社は素因減額を主張してくるケースが多々あるのです。
ただ、椎間板ヘルニアがあるからといって必ず素因減額すべきとはいえません。
時には椎間板ヘルニアと事故後のケガに因果関係がまったくない事案もあるでしょう。
因果関係があるとしても、どの程度の割合の減額を認めるかはケースバイケースで判断すべきです。
保険会社から素因減額を求められたとき、適切な考え方がわからなければ弁護士へ相談しましょう。
(2)骨粗鬆症の場合
被害者に骨粗鬆症の既往症がある場合にも、素因減額を主張されるケースが多々あります。
確かに被害者が骨粗鬆症の場合、骨折のリスクが高まるのである程度の素因減額を認めるべきとも考えられます。
ただし、骨粗鬆症だからといって、すべてのケースで素因減額すべきではありません。
この点、高齢者の場合には、骨粗鬆症による素因減額は容易に行うべきではないという考え方もあります。
骨粗鬆症が「疾患」と評価される場合には素因減額が行われることになり、事案に応じた判断が重要となります。
(3)身体的な特徴では素因減額されない
被害者が「一般の人よりも首が長い」「一般より太っている」などの身体的特徴を持っている場合、素因減額されるのでしょうか?
判例では、「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないというべきである」と判断されています(最判平成8年10月29日)。
したがって、病気ではない単なる身体的な特徴があったとしても基本的には素因減額できないと考えましょう。
保険会社がそういった主張をしてきたら、応じるべきではありません。
3 心因的素因について
心因的素因とは、賠償金を減額すべき事情の中でも被害者の精神的な要因をいいます。
たとえば、事故後に被害者が「うつ病」になって治療意欲を持てなかったために治療期間が長引いたケースなどで、心因的素因による素因減額が行われる可能性があります。
ただし、被害者が「うつ病」だからといってすべての事案で素因減額されるわけではありません。
また、単に一般とは異なる「変わった性格」というだけでも素因減額は行われません。
保険会社から心因的な素因減額を主張されたとき、実際には減額すべきでないケースも多々あります。
どの程度素因減額を適用すべきかについてもケースバイケースの判断が必要です。10%程度の減額が認められた例もあれば、50%の減額が認められた例もあります。
保険会社の提示する減額割合が適正とは限りません。
迷われたら、示談書に署名押印をする前に弁護士へご相談ください。
4 素因減額を主張されたときに弁護士に依頼するメリット
(1)適切に反論できる
保険会社から素因減額を主張されて納得できなくても、法的な知識がなければ反論が難しくなってしまいます。
弁護士であればこれまでの裁判例などをもとに適切に反論できるので、保険会社の言い値による不当な減額を防げるメリットがあります。
(2)賠償金が増額される
弁護士が示談交渉に対応すると、保険会社基準よりも高額な弁護士基準が適用されるので賠償金の金額が大きくアップする例が多々あります。
(3)ストレスが軽減される
ご自身で保険会社と対峙すると大きなストレスがかかります。
うつ病になっている方などにとっては、過大な負担となるでしょう。
弁護士に任せてしまえば、ご自身が保険会社の担当者と話す必要がなくなり、精神的負担も軽減されます。
京都の益川総合法律事務所では、交通事故被害者のサポートに力を入れています。
相手方から素因減額を主張されて納得できない方、示談交渉でお困り事がある方は、お気軽にご相談ください。
入通院慰謝料とは 計算方法や高額な慰謝料を受け取る方法について
交通事故の中でも「人身事故」に遭うと「入通院慰謝料」を請求できるケースが多数です。
後遺症が残らない事案でも、ケガをして入通院治療を受ければ入通院慰謝料を請求できます。
ただし、入通院慰謝料の計算方法には複数の基準があり、ケースによっては減額されてしまう可能性もあります。
今回は入通院慰謝料とはどういったものなのか、計算方法や減額されるパターン、なるべく高額な入通院慰謝料を払ってもらう方法を弁護士が解説します。
1 入通院慰謝料とは
入通院慰謝料とは、交通事故の被害者がケガをしたときに請求できる慰謝料です。
入通院した期間が長くなると金額が上がり、傷害を負ったら発生するので「傷害慰謝料」ともよばれます。
人身事故の被害に遭ったら、基本的に入通院慰謝料を請求できると考えましょう。
ただし、請求するには「入通院治療」を受けなければなりません。
事故でケガをしても病院に行かずに済ませてしまうと入通院慰謝料を請求できなくなるので、忙しくても軽傷でも必ず通院しましょう。
2 入通院慰謝料の計算方法
入通院慰謝料には3種類の計算方法があり、それぞれ金額が異なってきます。
ここでは、主に自賠責保険の計算基準である「自賠責基準」と弁護士や裁判所が採用する「弁護士基準」における入通院慰謝料計算方法をお伝えします。
(1)自賠責基準
自賠責基準の場合、入通院慰謝料の金額は「1日あたり4300円」です。
入院でも通院でも違いはありません。これを日数分請求できます。
入通院の日数については、基本的に「入通院治療を受けていた期間」に相当する日数です。
ただし、実通院日数が入通院治療を受けていた期間よりも減ると「実通院日数×2」が通院日数の基準となり、入通院慰謝料が減額されます。
入通院慰謝料=4300円×入通院日数
入通院日数は以下のどちらか少ない方の日数
- 入通院にかかった日数
- 実通院日数×2
計算の具体例
事故でむちうちとなり、3か月(90日間)通院したケース。通院日数は70日。
この場合、90日を基準にして計算するので、入通院慰謝料額は90日×4300円=387000円となります。
事故でむちうちとなり、3か月(90日間)通院したケース。通院日数は35日。
この場合、35日の2倍である70日を基準にして計算するので、入通院慰謝料額は70×4300円=301000円となります。
(2)弁護士基準
弁護士が示談交渉する際に適用する弁護士基準では、「軽傷」かそれ以外の「通常程度のケガ」かによって金額が変わります。
軽症の場合、通常程度のケガに比べて3分の2程度に入通院慰謝料が減額されます。
また、入院時には通院時よりも慰謝料が上がります。
軽傷の場合の入通院慰謝料(単位:万円)
入院 | 1ヶ月 | 2ヶ月 | 3ヶ月 | 4ヶ月 | 5ヶ月 | 6ヶ月 | 7ヶ月 | 8ヶ月 | 9ヶ月 | 10ヶ月 | |
通院 | 35 | 66 | 92 | 116 | 135 | 152 | 165 | 176 | 186 | 195 | |
1ヶ月 | 19 | 52 | 83 | 106 | 128 | 145 | 160 | 171 | 182 | 190 | 199 |
2ヶ月 | 36 | 69 | 97 | 118 | 138 | 153 | 166 | 177 | 186 | 194 | 201 |
3ヶ月 | 53 | 83 | 109 | 128 | 146 | 159 | 172 | 181 | 190 | 196 | 202 |
4ヶ月 | 67 | 95 | 119 | 136 | 152 | 165 | 176 | 185 | 192 | 197 | 203 |
5ヶ月 | 79 | 105 | 127 | 142 | 158 | 169 | 180 | 187 | 193 | 198 | 204 |
6ヶ月 | 89 | 113 | 133 | 148 | 162 | 173 | 182 | 188 | 194 | 199 | 205 |
7ヶ月 | 97 | 119 | 139 | 152 | 166 | 175 | 183 | 189 | 195 | 200 | 206 |
8ヶ月 | 103 | 125 | 143 | 156 | 168 | 176 | 184 | 190 | 196 | 201 | 207 |
9ヶ月 | 109 | 129 | 147 | 158 | 169 | 177 | 185 | 191 | 197 | 202 | 208 |
10ヶ月 | 113 | 133 | 149 | 159 | 170 | 178 | 186 | 192 | 198 | 203 | 209 |
通常程度のケガをした場合の入通院慰謝料(単位:万円)
入院 | 1ヶ月 | 2ヶ月 | 3ヶ月 | 4ヶ月 | 5ヶ月 | 6ヶ月 | 7ヶ月 | 8ヶ月 | 9ヶ月 | 10ヶ月 | |
通院 | 53 | 101 | 145 | 184 | 217 | 244 | 266 | 284 | 297 | 306 | |
1ヶ月 | 28 | 77 | 122 | 162 | 199 | 228 | 252 | 274 | 291 | 303 | 311 |
2ヶ月 | 52 | 98 | 139 | 177 | 210 | 236 | 260 | 281 | 297 | 308 | 315 |
3ヶ月 | 73 | 115 | 154 | 188 | 218 | 244 | 267 | 287 | 302 | 312 | 319 |
4ヶ月 | 90 | 130 | 165 | 196 | 226 | 251 | 273 | 292 | 306 | 316 | 323 |
5ヶ月 | 105 | 141 | 173 | 204 | 233 | 257 | 278 | 296 | 310 | 320 | 325 |
6ヶ月 | 116 | 149 | 181 | 211 | 239 | 262 | 282 | 300 | 314 | 322 | 327 |
7ヶ月 | 124 | 157 | 188 | 217 | 244 | 266 | 286 | 304 | 316 | 324 | 329 |
8ヶ月 | 132 | 164 | 194 | 222 | 248 | 270 | 290 | 306 | 318 | 326 | 331 |
9ヶ月 | 139 | 170 | 199 | 226 | 252 | 274 | 292 | 308 | 320 | 328 | 333 |
10ヶ月 | 145 | 175 | 203 | 230 | 256 | 276 | 294 | 310 | 322 | 330 | 335 |
また、弁護士基準でも、実通院日数が少ないと入通院慰謝料を減額される可能性があります。
軽傷の場合、実通院日数の3倍程度、通常程度のケガの場合には実通院日数の3.5倍程度として計算されます。
(3)任意保険基準
任意保険会社が示談交渉する際に用いるのが任意保険基準で、各任意保険会社により、計算方法が異なります。
ただし一定の相場はあり、だいたい自賠責基準より多少高い程度に設定されている例が多数となっています。
いずれにせよ、弁護士基準と比べると大幅に低くなると考えましょう。
3 高額な入通院慰謝料を払ってもらう方法
(1)自己判断で通院をやめない
入通院慰謝料は、入通院した期間に応じて払われるものです。
自己判断によって途中で通院を打ち切ると、そこまでの分しか支払われず金額が減額されてしまうので注意しましょう。
医師が「症状固定」または「完治」と判断し、治療が終了するまできちんと通院を継続することが大切です。
(2)適切な頻度で通院する
通院期間が長くても、実通院日数が少ない場合には、入通院慰謝料は減額されます。
必要性があることが前提ですが、最低でも週に1、2回は通院するのがよいでしょう。
(3)弁護士基準で計算する
入通院慰謝料を弁護士基準で計算することも重要です。
他の基準をあてはめると大幅に減額されるので、人身事故の示談交渉は弁護士へ依頼するのがよいでしょう。
京都の益川総合法律事務所では交通事故被害者のサポートに積極的に取り組んでいます。
交通事故でケガをされて慰謝料請求をしたい方、保険会社との示談交渉を有利に進めたいという方はお早めに弁護士までご相談ください。
会社が従業員へ損害賠償請求ができるケースと懲戒解雇について
従業員がミスをして会社に迷惑をかけた場合、会社は従業員へ損害賠償請求ができる可能性があります。
ただし、すべてのケースで損害賠償請求できるとは限りません。
今回は、従業員のミスに対する損害賠償請求の可否や従業員の責任の限度について、弁護士が解説します。
従業員から迷惑をかけられてお困りの経営者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
1 従業員に損害賠償請求できる2つの法的根拠
従業員が会社に迷惑をかけたとき、一定要件を満たせば会社は従業員へ損害賠償請求ができます。
法的根拠は、以下の2種類です。
(1)債務不履行
従業員と会社は、雇用契約を締結しています。
従業員は契約にもとづいて、会社へ労働力を適切な方法で提供しなければなりません。
それにもかかわらず、会社に迷惑をかける不適切な行動をとることは、「債務不履行」となります。
そこで、会社は従業員に対して債務不履行責任にもとづき損害賠償請求ができます。
(2)不法行為責任
従業員が故意や過失によって違法行為を行い、会社に損害を発生させると「不法行為責任」が成立します。
この場合にも、会社は不法行為にもとづく損害賠償請求として、従業員へ損害賠償請求できます。
2 従業員の賠償責任は制限される
従業員がミスによって会社に損害を発生させたとしても、すべてのケースで会社が損害賠償請求をできるとは限りません。
裁判例においては、「責任制限の法理」という考え方により、従業員の責任が軽減されるためです。
従業員は、会社の命令に従って仕事をしており、会社は従業員の労働によって利益を受けています。
また、従業員は会社の命令に従って危険業務につく可能性もあります。会社と従業員の経済力の差も重大であり、この点についても意識しなければなりません。
それにもかかわらず、ミスをした場合に限って従業員に全面的な損害賠償義務を負わせるのは信義則に反するといえるでしょう。
3 従業員に損害賠償責任が発生する基準とは
実際にどういったケースで従業員に損害賠償義務が発生するのか、みてみましょう。
(1)従業員の過失の程度が重い
従業員のミスが重大であれば、従業員側に責任が認められる可能性が高くなります。
一方、軽度なミスであれば責任は限定されます。
労働条件や施設の状況、会社による指導監督の方法なども考慮されます。
(2)会社の管理体制に問題がなかった
会社の管理体制に問題があったなら、会社が損害についての責任をとるべきです。
一方、管理体制に問題がなければ従業員側に問題があったと考えるべきでしょう。
業務の性質、業務の形態、長時間労働や深夜勤務がなかったか、保険加入の有無なども考慮されます。
(3)ミスを防止する措置をとっていた
会社が従業員のミスを防止する措置を適切にとっていたなら、従業員側に責任があると考えられます。
会社が過去の同じようなミスに注意をした経緯があるか、再発防止措置をとっていたのかなども考慮されます。
4 会社が従業員へ損害賠償請求できるケースの具体例
以下のような事例においては通常、会社側が従業員へ損害賠償請求できると考えましょう。
- 金融機関で従業員が自己判断で与信枠を超えて貸し付けた
- 従業員が会社のお金を横領した
- 従業員が相手と結託して架空の貸付を行った
- 検査員が支店長の横領や架空貸し付けを見抜けなかった
- 居眠りによって不良品を生じさせた
- 不注意で宝石類が入ったカバンを盗まれた
- 仕様と異なる注文書が提示されたのに見逃した
- 現場監督を怠って越境した伐採が行われてしまった
- 請求書を送り忘れて債権回収できなくなってしまった
5 損害の全てを賠償されるとは限らない
従業員に損害賠償責任が発生するとしても、全額の賠償が認められるとは限りません。
会社による管理が不十分だったケースなどでは、会社にも一定の責任を負わせるべきだからです。
発生した損害のうち、どの程度が賠償の対象になるかは個別に判断されます。
正確に算定するには過去の裁判例と照らし合わせる必要があるので、迷ったときには弁護士へ相談してみてください。
6 ミスをした従業員を懲戒解雇できる場合
従業員がミスをして会社に迷惑をかけた場合、懲戒解雇できる可能性があります。
ただし、常に懲戒解雇が有効になるとは限りません。以下の要件を満たす必要があります。
- 懲戒に関する就業規則の規定がある
- 会社へ損害を与えることが懲戒事由となっている
- 懲戒解雇が相当なほどの重大なミスである
そもそも、就業規則で懲戒に関する規定がなければ懲戒解雇はできません。
また、従業員の行為に対し、重すぎる処分も無効となってしまいます。
無効な懲戒解雇を行うと、後に従業員から「不当解雇」と主張されて労働審判や労働訴訟を提起されるリスクも発生します。
自己判断で懲戒解雇を行わず、まずは弁護士にアドバイスを求めましょう。
京都の益川総合法律事務所では、各業種、業態、規模の企業の労務管理対策に力を入れています。
従業員のミスや故意によって損害を与えられてお困りの方は、お気軽にご相談ください。
能力の低い社員への対応方法
社内に能力の低い従業員がいると、経営の負担になるものです。
能力が低いからといって簡単に辞めさせることもできません。
この記事では、京都で企業法務に積極的に取り組む弁護士が、能力の低い「ローパフォーマー」社員への対応方法をお伝えします。
成績の振るわない社員やモチベーションの低い社員にお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。
1 能力の低い社員(ローパフォーマー)とは
どのような会社にも、一定数は能力の低い社員がいるものです。
人は集団になると、上位2割が実績や生産性が高い優秀なグループとなり、6割は平均的、下位2割は実績も生産性も低く劣後するグループになるといわれています。
これを「2-6-2の法則」などともいいます。
いずれにせよ、どんなに注意して採用面接を行ったとしても、一定数の社員が能力不足になるのは避けようがないでしょう。
このように、会社にとって負担となる低能力社員のことを「ローパフォーマー」ともいいます。
2 能力の低い社員(ローパフォーマー)の具体例
- 本人は一生懸命に仕事をしているが、他の社員と比べて明らかに生産性が低い、失敗が多い、仕事が遅い
- 何度注意しても改善されない、注意の意味や目的をわかってくれない
- 本人のモチベーションが低い
- 本人の生産性やモチベーションの低さが周囲の従業員にも波及して悪い影響が及んでいる
3 ローパフォーマー社員を放置するデメリット
社内にローパフォーマー社員が増えるとさまざまなデメリットがあります。
(1)会社全体の生産性が低下
ローパフォーマーは成績が振るわず、何をさせてもうまくいかないケースが多数です。
能力が低い社員が増えると会社全体の生産性が低下してしまう可能性もあります。
(2)他のメンバーのモチベーション低下
社内にローパフォーマーがいると、他の社員にそのしわ寄せが来ます。
同じ給料をもらっているのに他の社員の負担が重くなってしまうと、他の社員が不満を抱くでしょう。
離職者が発生する可能性もありますし、組織全体のモラルダウンをもたらすケースも少なくありません。
(3)非効率的
ローパフォーマーの行う仕事を他の社員がカバーしなければならないので、業務の流れが非効率的になります。
(4)給料が高すぎて負担になる
ローパフォーマーに与えられる仕事は限定的であるにもかかわらず、簡単に給与カットできるわけではありません。
結果的に、本人の仕事に見合わない高額な報酬や処遇を与えることとなり、企業に負担になります。
4 能力の低い社員への対処方法
社内に能力の低い従業員がいる場合、以下のように対応しましょう。
(1)適正な人事評価制度の構築
まずは、適正な人事評価制度を構築することが重要です。
ローパフォーマーにはローパフォーマーなりの評価を行い、報酬や処遇を決定すれば会社にとっても過度な負担になりません。
他の従業員の待遇がローパフォーマーより良ければ、不満も溜まりにくいでしょう。
(2)指導や研修を積極的に行う
ローパフォーマーへの指導や教育研修を積極的に行うべきです。
能力不足の原因が単に未熟なだけであれば、指導や研修、改善行動の繰り返しによって徐々に状況が変化していく効果も期待できます。
(3)人事の変更で解決できることも
ローパフォーマーが生み出される要因が「上司」や「人間関係」「仕事内容」にあるケースでの対応です。
周囲の人間関係が悪かったり仕事内容が合っていなかったりして本人のモチベーションが上がらず生産性が悪くなっている状態であれば、本人と面談して問題点を把握したうえで、人事や部署を変更してみましょう。
パフォーマンスが改善される可能性があります。
(4)退職勧奨
どうしても状況を改善させられない場合には、本人へ退職勧奨するのも1つの方法です。
本人が退職を受け入れれば、解雇しなくても辞めさせることができます。
ただ、本人が会社に不満を抱いていなければ、退職に合意しにくいでしょう。
退職金を上乗せするなど、一定程度有利な条件を提示しなければ難しい可能性はあります。
(5)最終的には解雇も検討する
退職勧奨をしても受け入れられなかった場合、最終的にはローパフォーマー社員を解雇するしかありません。
ただし、能力が低いからといって簡単に解雇できないので、注意深く進める必要があります。
裁判例でも、能力不足を理由とした解雇については相当厳しい判断が行われています。
具体的には以下のような事情を考慮して、解雇の有効性が判断されるケースが多数です。
- 対象者との労働契約において、求められる能力の内容や程度
- 能力不足が労働契約を継続できないほど重大であるか
- 企業側が対象従業員に対し、改善矯正を促したり努力反省の機会を与えたりしたか、それでも改善されなかったのか
- 今後の指導教育によっても改善可能性の見込みがまったくないのか
解雇は慎重に進めないと後に「不当解雇」として会社側が訴えられるリスクが高いので、事前に弁護士へ相談しましょう。
京都の益川総合法律事務所では、多数の企業に対して、ローパフォーマー対策についての助言を行ってきました。
お悩みの経営者や人事担当者の方がおられましたらお気軽にご相談ください。
職務怠慢な社員への対応方法
社内に職務怠慢な従業員がいると、業務効率が落ちるだけではなく周囲の従業員の士気にも悪影響を与えてしまいます。
かといって、簡単に解雇することもできません。
今回は、職務怠慢な社員による悪影響や具体例、対応のポイントを弁護士がお伝えします。
1 職務怠慢な従業員の特徴、具体例
職務怠慢な従業員の特徴として、以下のようなものがあります。
(1)遅刻や早退、欠勤が多い
遅刻や早退、欠勤が多いのは職務怠慢社員の大きな特徴です。
無断欠勤を繰り返して周囲の従業員に迷惑をかける人も少なくありません。
本人だけではなく他の従業員の業務効率まで落ちてしまい、会社全体の問題になる事例もあります。
(2)与えられた仕事をしない
職務怠慢な社員は、可能な限り仕事をしないで済まそうと考えているものです。
十分に余裕をもって仕事を与えても、一向に仕上げてこない人が少なくありません。
なぜできなかったのか聞いても言い訳をするだけで、反省の態度はみられません。
(3)注意されても態度が悪い
あまりに勤務態度が悪いために上司が注意したとしても、態度が悪く聞き入れないのも職務怠慢社員の特徴です。
そのときだけは良い返事をしても、実際には改善されない怠慢社員のパターンもあります。
(4)副業に熱心
副業がすべて悪いわけではありませんが、副業に熱を入れすぎて本業を疎かにする人もいます。
こっそり業務時間内に副業をしている従業員も少なくありません。
(5)会社の備品を私物化する
会社で使っているPCやタブレットなどを持ち帰って私的な目的で使用する人もいます。
このような行動をされると会社の重要な情報が外部に漏れてしまうおそれもあり、会社の信用問題や責任問題になりかねません。
2 職務怠慢だからといって減給や解雇は難しい
労働契約を締結している以上、従業員は労働力を提供しなければなりません。
ただどこまでの労働力を提供すべきか、雇用時に詳細まで取り決めるのは極めて困難でしょう。
また、成績が悪い、多少遅刻や欠勤が目立つというだけでは解雇理由にならないケースが多数です。
減給についても、よほどのことがない限りはできません。
結局、本人が出勤してまがりなりにも仕事をしている以上、企業側としては懲戒や解雇は困難となりがちです。
3 職務怠慢な問題社員への対応のポイント
職務怠慢な社員に対しては、以下のように対応しましょう。
(1)適正な人事評価制度を構築する
まずは、適正な人事評価制度を導入することが重要です。
上司が主観的に評価するのではなく、より客観的な評価基準をもうけましょう。
職務怠慢な態度が待遇や役職などに適正に反映されるようになれば、無駄な給与を払う必要はなくなりますし、他の従業員の不満も抑えられやすくなります。
(2)注意や指導を行う
職務怠慢社員に遅刻や早退、欠勤、就業時間中に持ち場を離れる、仕事がいつまでも終わらないなどの問題行動が目につくなら、早い段階で注意や指導を行いましょう。
注意されて初めて問題点に気づくタイプの人もいます。
また、注意や指導を行っても改善されなかったという経過により、後に解雇が認められやすくなるケースもよくあります。
注意や指導を行う際には、書面に残したりメールなどのデータを取ったりして、証拠を残しましょう。
(3)懲戒を検討する
職務怠慢の程度がひどい場合には、懲戒処分も検討しましょう。
ただ、職務怠慢だからといって当然に懲戒できるとは限りません。
減給するとしても、法により上限が定められています。
問題行動とバランスのとれない懲戒処分を適用すると、不当な懲戒処分として争われるリスクが発生するので、慎重に進めましょう。
(4)退職勧奨する
職務怠慢社員の態度が行き過ぎており、注意しても改善の余地がないなら辞めてもらうしかありません。
ただ、その場合でも、いきなり解雇するのはおすすめしません。
解雇すると、後に「不当解雇」などと主張されて労働審判や訴訟を起こされる可能性もあるからです。
まずは、退職勧奨を行い、自主的な退職を目指しましょう。
退職勧奨を行う場合には、後に「退職を強要された」と主張されないために慎重に進めるべきです。
対象者を取り囲んで退職届を無理に書かせたりしないよう、注意しましょう。
(5)解雇する
退職勧奨を行っても改善しない場合、最終的に解雇を検討するしかありません。
ただ、解雇は必ずしも認められるとは限らないので、まずは法律上の解雇要件を満たすかどうか検討すべきです。
また、要件を満たすように思えても、後に不当解雇といわれないよう慎重に対応する必要があります。
解雇理由を明確にして解雇予告を行うか解雇予告手当を支給し、法律上問題のない方法で手続きを進めましょう。
職務怠慢社員に対応するには、状況に応じて段階的に手続きを進めていく必要があります。
自社のみで対応するとトラブルに発展してしまうケースも少なくありません。
お困りの際には、京都の益川総合法律事務所まで、お気軽にご相談ください。
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