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・キーワード
労働組合、団体交渉、残業代の請求、年次有給休暇、休業補償をしない、自己都合退職
・ご相談内容
ご依頼者は、運送業者様です。
会社の従業員が、業務上の怪我を理由に休業していたところ、その従業員が社外の労働組合に加入しました。そして、労働組合から会社に対して、残業代の支払や年次有給休暇などについて、協議したいとの内容の「団体交渉申入書」が届きました。
会社としても、初めての労働組合からの書面であり、どのように対応すればよいか分からないとのことで、当事務所に依頼されました。
・当事務所の対応及び結果
■団体交渉前
労働組合からの書面においては、団体交渉の候補日が、書面が送付された約1週間後で、場所も会社事務所か労働組合の事務所とすることが求められていました。
しかし、団体交渉においては、弁護士と会社において、ある程度の準備を進めてからでなければ、労働組合側にペースを握られてしまうため、弁護士が日程について交渉を行い、検討の時間を確保しました。
また、団体交渉の場所としても、いつまでも使用可能な場所だと、時間がずるずる長時間にわたることもあるため、弁護士会の貸会議室にする形で合意をとりました。
さらに、団体交渉の前に、ルール設定を設けて、①出席者の人数、②録音・録画の可否、③議事録の作成の有無等を明確にした状態にしています。
■初回の団体交渉
初回の団体交渉の際には、労働組合側から、どのような解決を望んでいるかを詳細に聞き出しました。
なぜなら、残業代にしても、年次有給休暇にしても、組合側から金額なり要望が出なければ、会社としても適切な対応が打ちづらいためです。ここで、組合側が望んでいる、残業代の金額と、有給休暇の精算方法等を詳細に聞き出しています。
■第2回目の団体交渉
第2回目の団体交渉の際には、組合側からの要望を踏まえて、当方から残業代の金額と有給休暇の精算方法を示しています。
残業代の金額については、組合側の提示額のおおよそ半額を提示する形にしています。組合側も言っていましたが、当初の組合側が提示している残業代の金額でも、裁判にいった時と比べて控えめな金額であったため、組合としても納得できるものではなく、このままだと、組合としても従前の請求額を撤回して、金額を計算し直す等の主張がされていました。また、組合側から、現在、従業員が休職中であるが、その従業員の会社に対する、休業補償の請求も考えなければならないとの話もありました。
第2回目の団体交渉の時点では、弁護士が残業時間に関する資料を全てチェックして、残業代を算出していたため、裁判になった場合に予測される残業代の金額も把握していました。そして、組合側の指摘するように、裁判になった場合には、組合側の請求額を優に超える金額の残業代の支払いが予測されていました。
しかし、初回の団体交渉の際に、相手方の要望等を詳細に確認していたため、相手方が早期解決を望んでいることや、当該従業員が今後退職するであろうことは分かっていました。
当方としても、かかる金額で合意することはないと分かっていたものの、第3回目で、当方の望む範囲で解決するためには、先に布石を打たざるを得ないと判断して、意図的に上記のような和解案を出しました。
■第3回目の団体交渉
第3回目の団体交渉で、合意内容が決まりました。
主な合意内容は、下記の通りです。
①残業代については、裁判になった場合に予測される金額より、150万円以上減額した金額
②当該従業員の休業期間が終了後に、年次有給休暇を全て消化させる
③当該従業員が、年次有給休暇を全て消化した後に自己都合退職する
④会社は休業補償を支払わない
かかる合意が決まる前に、当方から当該従業員に対して、会社が最大限譲歩した内容であること、会社(当方)は団体交渉を何度でも続ける余力があること、仮に従業員が弁護士に依頼した場合には追加で弁護士費用がかかる上、期間は大幅に伸びることなどを懇々と説得しました。
すると、当該従業員も、最終的には上記の内容に納得しました。
・コメント
労働組合からの団体交渉に際して、会社が納得できる内容で合意を成立させた事案です。
当初、会社からは、納得できる範囲で、できる限り早く解決してもらえると助かりますとのご要望を頂いておりましたが、会社が望んだ金額より、低い金額で、なおかつ3か月以内という早期に解決することができました。
当事務所では、団体交渉の際、基本的には、社長の同席はしない形で対応しています。社長が同席してしまうと、組合側からも即断即決を求められる傾向がありますし、社長の負担も大きいためです。
また、当事務所では、基本的には、労働組合とも一定の信頼関係を作り、解決するように努めています。もちろん、労働組合側から無礼な振る舞いをされれば、無礼な振る舞いで返すようにはしておりますが、労働組合の担当者も、こちらが逆鱗にさえ触れなければ、誠実に対応してくれる人もいるためです。
安易に労働組合と敵対関係を作った場合、会社前で街宣活動をされたり、団体交渉が長期化して、会社が疲弊してしまう可能性があります。
もちろん、団体交渉の中には、労働組合と徹底的に戦う必要のある案件もありますが、わざわざ当初から逆鱗を触れる必要はないと考えています。
また、労働組合側から、無礼な対応をされた際に、無礼な対応で返した場合、普段はやり返されることがないためか、それ以降は、適切に対応をしてくることもあります。
労働組合への対応案件においては、会社の他の従業員に波及しないように対策を打つ必要がありますが、幸いこの案件も既に解決から数年が経過しておりますが、他の従業員が労働組合に加入したり、残業代を請求してきたとの内容は確認されていません。
労働組合から、団体交渉の申し入れが届いた会社・経営者の皆様は、お気軽にご相談頂ければと思います。
※特定できない程度に内容をぼかしています。