コラム

民法改正による消滅時効制度の変更について―企業の方へー(1)

2023-08-18

2020年(令和2年)4月1日に施行された民法の改正により、消滅時効制度について大きな変更がなされました。

この記事では、民法改正による消滅時効制度の変更について、京都の弁護士が解説します。

企業の債権の管理にも関わる問題ですので、債権管理をしている企業の方は参考にしてみてください。

1 消滅時効の概要

消滅時効とは、権利を行使しないまま一定期間が経過した場合、その権利を消滅させる制度です。

時効制度の意義については、

  • 継続している事実状態は保護すべきである
  • 期間が経過することにより証拠の提出が困難になる当事者を保護すべきである
  • 権利の上に眠る者は保護しない

と説明されています。

2 改正のポイント

主な改正のポイントは、以下の4つです。

  • ①職業別の短期消滅時効の見直し
  • ②時効の中断・停止の見直し
  • ③人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の見直し
  • ④不法行為の損害賠償請求権の長期の権利消滅期間に関する見直し

以下、順に解説していきます。

(1)①職業別の短期消滅時効の見直し

改正前民法においては、職業別の短期消滅時効の特例が定められ、また、商法においても、商事消滅時効の特例が設けられていました。

しかし、これについては、ある債権について、どの時効期間が適用されるのか分かりにくい等の問題が指摘されていました。

そこで、改正民法では、職業別の短期消滅時効、商事消滅時効について廃止し、「権利を行使することができる時」から10年という時効期間は維持しつつ、「権利を行使することができることを知った時」から5年という主観的起算点からの消滅時効期間を追加し、そのいずれか早いほうの経過によって
時効が完成する、としました。

(2)②時効の中断・停止の見直し

時効の中断とは、法定の中断事由があったときに、それまでに経過した時効期間がリセットされて、改めてゼロからスタートすることです。

時効の停止とは、時効が完成する際に、権利者が時効を中断するのに障害がある場合に、その障害が解消された後一定期間が経過するまでの間時効の完成を猶予するものです。

時効の中断については、制度が複雑でわかりにくいという問題点があり、また、時効の停止についても、「停止」という用語から意味が理解しにくい、時効の中断とともに整理すべきではないかという指摘がなされていました。

そこで、改正民法では、時効の中断について、その効果に応じて「完成猶予」(時効の完成を猶予する効果)と「更新」(時効を新たに進行させる効果)に整理し、時効の停止については「完成猶予」に整理しました。

また、時効の「完成猶予」事由と「更新」事由についての整理もなされました。さらに、協議を行う旨の合意が時効の完成猶予事由となるという規定が新設されました。

3 まとめ

本記事では、消滅時効制度の概要、改正のポイントのうち①職業別の短期消滅時効の見直し、②時効の中断、停止の見直しについて解説しました。

債権の管理という観点からいうと、①職業別の短期消滅時効の見直しにより、消滅時効期間が統一されたことが重要なポイントとなるのではないでしょうか。

次の記事では、③、④について解説していきます。

経歴詐称を理由に懲戒解雇ができるのか?

2023-08-11

採用の段階では経験者であると聞いていたけれども、入社後に経験者でなかったことが発覚した場合など、採用の段階で聞いていた経歴が入社後に虚偽であったことが発覚した場合、会社は懲戒解雇をすることができるでしょうか。

この記事では、経歴詐称を理由に懲戒解雇ができるのかについて、京都の弁護士が解説します。社員の経歴詐称が発覚して困っているという会社の方はぜひ参考にしてください。

1 経歴詐称

経歴詐称は代表的な懲戒事由であり、多くの会社では就業規則の懲戒事由としています。会社にとって、履歴書に書いてある学歴や職歴は、社員の採用を決めるにあたって重要な判断要素となるからです。

もっとも、経歴詐称を理由に懲戒処分を行うためには、詐称された経歴が重要なものであることが必要とされています。

2 どのような経歴の詐称が重要な経歴の詐称にあたるか

では、どのような経歴の詐称が「重要な経歴の詐称」にあたるのでしょうか。

これについては、最終学歴、職歴、犯罪歴などがあげられます。

もっとも、これらに当たる場合であっても、具体的な事実関係から採否決定において重要な内容であったかどうかという観点から判断がなされます。

このうち、最終学歴については、高く詐称した場合だけでなく、低く詐称した場合にも問題となるものです。過去の裁判においては、最終学歴について低く詐称した事案で懲戒解雇を認める判断がなされているので、注意が必要です。

3 まとめ

以上のとおり、経歴詐称を理由に懲戒解雇ができるのかについては、「重要な経歴の詐称」に当たるかについて、具体的な事実関係から採否決定において重要な内容であったかどうかという観点から判断がなされます。

京都の益川総合法律事務所では、企業法務に力を入れて取り組んでいます。

経歴詐称を理由に懲戒解雇をしてもいいかという判断については、弁護士の法的なアドバイスが有効ですので、お困りの会社の方は、お気軽にご相談ください。

懲戒処分の種類について弁護士が解説

2023-07-28

社員が問題を起こしたとき、会社は、懲戒処分を行うか、行うとすればどの懲戒処分とするかについて検討するのではないでしょうか。

検討にあたっては、どのような懲戒処分があるのか、しっかりと把握する必要があります。

この記事では、懲戒処分の種類について京都の弁護士が解説します。懲戒処分を検討している会社の方はぜひ参考にしてください。

1.懲戒処分の種類

懲戒処分の種類について、法律で規定があるものではありませんが、多くの会社では、軽い処分から順番に、譴責・戒告、減給、出勤停止、降格・降職、諭旨解雇、懲戒解雇が定められています。

2.譴責(けんせき)・戒告

譴責・戒告は、口頭又は文書によって将来を戒めるものであり、最も軽い懲戒処分です

譴責・戒告自体によって実質的な不利益を受けるものではありませんが、譴責や戒告を受けたことを理由として、人事考課が低くなり、昇給や賞与に不利に働くことがあります。

3.減給

減給とは、本来その労働者が受けるべき賃金額から一定額を差し引くことですが、労働基準法91条により、「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」と定められています。これは、1回の問題行為について平均賃金の半日分が上限であり、複数の問題行為があったとしても、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えることができない、ということです。

4.出勤停止

出勤停止とは、労働契約を存続させながら労働者の就労を一定期間禁止するものです。

出勤停止期間中は賃金が支給されず、勤続年数にも通算されないことが通例です。期間としては、1週間から2週間程度が多いですが、1か月から3か月などの長期になる場合には、「懲戒休職」とされ、労働者の不利益が大きいことから、処分の有効性は厳しく判断されます。

5.降格・降職

降格・降職とは、人事制度における役職・職位・職能資格などを引き下げることです。

人事権の行使のみならず、懲戒処分として行われることもあるため、就業規則上の根拠が必要です。

6.諭旨解雇(ゆしかいこ)

諭旨解雇とは、一般的には、労働者から退職届けを提出させたうえで解雇する処分であり、懲戒解雇よりも多少緩やかな懲戒処分とされています。

諭旨解雇も、労働者の不利益(職を失う)が大きいため、懲戒解雇に準じて厳しく有効性が判断されます。

7.懲戒解雇

懲戒解雇とは、懲戒処分の一態様として行われる解雇であり、最も重い懲戒処分です。

退職金の全部又は一部が支給されない場合が多く、再就職にも不利になるなど、労働者への不利益が大きいものです。そのため、処分の有効性については厳格な判断がなされます。

検討が十分でないまま懲戒解雇を行って、労働者から無効を主張され、その主張が認められてしまうと、地位の回復や未払い賃金の支払いを求められるなど、会社にとって大きなダメージとなってしまうので、処分の前に慎重な検討が必要です。

京都の益川総合法律事務所では、企業法務に力を入れて取り組んでいます。

懲戒解雇については慎重な検討が必要ということをご存知かもしれませんが、その他の処分については、どのような問題行動に対して、どの処分が妥当かはよくわからない、という方も多いと思います。

どの処分が妥当であるかについては、問題行動の態様、原因、動機、当該社員の処分歴、同種事案の処分例との均衡等について考慮する必要があります。

社員が問題を起こして処分を検討されている等のお困りごとのある会社の方は、お気軽にご相談ください。

懲戒解雇した社員に退職金を払わなければいけないのか?

2023-07-21

社員が問題行動により懲戒解雇となった場合、当然退職金を払わないでよい、又は迷惑をかけられたのだから退職金を払いたくないとお考えになる経営者の方がいらっしゃいます。

では、会社は懲戒解雇した社員に退職金を払わなければいけないのでしょうか

この記事では、懲戒解雇した社員に退職金を払わなければいけないのか、京都の弁護士が解説していきます。興味のある方はぜひ参考にしてみてください。

1.退職金の法的性質

懲戒解雇した社員に退職金を払わなければいけないのか、という問題について考えるにあたっては、退職金にどのような法的性質があるかが関わってきます。

これについては、退職金が就業規則や労働協約によって支給条件が明確に定められている場合、退職金は、賃金の後払い的性格と功労報償的性格が混在しているとされています。

2.退職金不支給条項

このような退職金の法的性質をふまえて、退職金の支給条件として、一定の事由がある場合に退職金の不支給や減額を定めることは認められますが、不支給や減額をするには、労働者のそれまでの功労を抹消また減殺するほどの信義に反する行為があった場合に限られるとされています。

今まで述べてきたとおり、懲戒解雇した社員には当然に退職金を支払わなくてよい、ということにはなりません。

退職金を支払わなくてよい事案であるか、労働者のそれまでの功労を抹消また減殺するほどの信義に反する行為があったか否かについては、慎重な検討が必要です。

京都の益川総合法律事務所では、退職金の不支給などの労働問題(使用者側)についてのご相談に力を入れて取り組んでいます。お気軽にご相談ください。

相続問題は益川総合法律事務所にご相談ください

2023-07-14

 

相続問題が発生した場合には、早めに弁護士へ相談することがおすすめです。

当事務所にご相談に来られる方の中にも、弁護士に相談する前にご自身の判断で対応してしまい、法的に妥当でない結果となってしまわれている場合もあります。

自己判断で対応してしまうと、思ってもみない結果になってしまうこともあり、後悔が残ってしまいかねません。

京都の益川総合法律事務所では、相続問題にも力を入れています。

当事務所では、初回の法律相談については無料で行っております。

弁護士がじっくりお話を聞かせて頂き、ご相談者の方のご希望や心情についても把握できるように努め、法的な見通し等についてもお伝えさせて頂けます。

また、初回法律相談にて、相談者の方と弁護士との相性が良いか確認頂くことも可能です。

相続問題は、事件終了までの期間がある程度長くなってしまうことが多いため、弁護士との相性が良くなければ、打ち合わせや連絡を取り合うことが苦痛になりかねないので、ご確認頂くことがご相談者の方にとっても安心かと思います。

また、当事務所からも、費用対効果の問題で、弁護士への依頼がおすすめできる案件かについて、率直にご意見をお伝えさせて頂いています。

弁護士に法律相談をしても、必ず弁護士にご依頼頂く必要はありませんので、安心してご相談頂ければと思います。

当事務所では、遺産相続の専門サイトも運営しておりますので、ぜひご覧になってみてください。

相続問題は益川総合法律事務所にご相談ください。

台風による被害について賠償責任はあるのか?

2023-07-07

台風などの自然災害により被害が出た場合、賠償責任は発生するのでしょうか。

たとえば、台風により、自分が所有する建物の一部が飛んで、近隣に駐車中の車を傷付けてしまった場合、賠償責任を負わなければならないのでしょうか。

以下、京都の弁護士が解説していきますので、興味のある方は参考にしてみてください。

1.土地工作物責任(民法717条)

土地の工作物(建物など)の設置又は保存の瑕疵により他人に損害が発生した場合、その工作物の占有者及び所有者が賠償責任を負うとされています(民法717条)。

ここでいう「瑕疵」とは、工作物が通常備えているべき安全性を欠いていることをいいます。

2.瑕疵と損害との間の因果関係

土地工作物責任が生じるためには、瑕疵と損害との間に因果関係が存在することが必要となります。

では、台風などの自然災害により損害が発生した場合には、どのように考えればよいのでしょうか。

これについては、予想を超えるような強風や大雨などの不可抗力のため、もし工作物に瑕疵がなかったとしても損害が生じたであろう場合には、因果関係がないとして、工作物責任が成立しないとされています。

工作物に瑕疵がある場合には、因果関係がないとされることはありませんが、自然災害の損害発生への寄与度を考慮して損害賠償額が減額されることになります。

京都の益川総合法律事務所では、土地工作物責任についてのご相談も取り扱っております。お気軽にご相談ください。

弁護士の交渉により、交通事故の損害賠償額を約110万円増額することに成功した事案【解決事例】

2023-06-30

・キーワード

交通事故人身、主婦の休業損害、示談交渉

・ご相談内容

ご依頼者は、自動車に同乗中、対向車がはみ出してきたために正面衝突をし、右手首の骨折等の怪我をしてしまいました。相手方保険会社との交渉については、弁護士に任せたいということで、当事務所にご依頼されました。

・当事務所の対応及び結果

相手方保険会社とは、主に通院慰謝料と休業損害について争いになりました。通院慰謝料については、弁護士基準(裁判基準)をベースとした損害賠償額が認められ、休業損害については家事従事者の休業損害及びその金額を主張したところ、請求金額の一部が認められました。

結果、当初の提示金額より約110万円増額した賠償額を引き出すことに成功しました。

・コメント

弁護士の交渉により、交通事故の損害賠償額を約110万円増額することに成功した事案です。

大幅増額に成功したため、ご依頼者からは大変喜んで頂きました。

通院慰謝料については、相手方保険会社からの提示金額が弁護士基準(裁判基準)と比べて低くなっていることも多いため、弁護士による増額交渉が役立つことが多くあります。

また、家事従事者についても、事故による傷害のために家事に従事することができなかった期間について、休業損害を請求することができるとされているため、弁護士が適切な主張をしたところ、休業損害の増額に成功しました。

本件のように、弁護士が交渉を行うことにより、損害賠償額を増額することができる事案もありますので、お気軽にご相談頂ければと思います。

※事件の内容については、特定できない程度に抽象化しています

ご依頼者の声6

2023-06-23

・ご回答者様

女性

・ご年齢

50代

・ご依頼内容

遺産相続、その他

・弁護士の説明はいかがでしたか。

■非常によい   ▢よい   ▢普通   ▢悪い   ▢非常に悪い

・弁護士、事務員の対応はいかがでしたか。

■非常によい   ▢よい   ▢普通   ▢悪い   ▢非常に悪い

・解決結果についてご納得頂けましたか。

▢非常に納得  ■納得  ▢どちらともいえない  ▢納得できない  ▢全く納得できない

・お困りの方に、益川総合法律事務所を紹介したいですか。

■紹介したい   ▢どちらともいえない   ▢紹介したくない


コメント

相続した土地についてのトラブルがあり、当事務所にて対応し、解決に至ったという事案です。大変複雑な法律関係があったのですが、弁護士が粘り強く対応した結果、無事解決したために、ご依頼者からは大変喜んで頂けました。少しでもご依頼者の利益になるようにと尽力したため、弁護士としても、とても嬉しく感じました。

京都の益川総合法律事務所では、遺産相続についても積極的に対応しております。

詳しくは、当事務所の遺産相続のサイトをご覧になってみてください。

契約書のリーガルチェックで確認すべきポイント

2023-06-16

会社が事業を行うにあたって、契約書のリーガルチェックが重要であるということが言われます。では、具体的にはどのようなポイントを確認するべきなのでしょうか。

この記事では、契約書のリーガルチェックで確認すべきポイントについて京都の弁護士が解説します。

1 契約書のリーガルチェックとは

契約書のリーガルチェックとは、契約書の内容を法的な観点から調査し、作成・確認することをいいます。

詳しくは、「契約書のリーガルチェックについて弁護士が解説」というページで解説しているので、ご覧になってみてください。

2 契約書のリーガルチェックで確認すべきポイント

契約書のリーガルチェックで確認すべきポイントとしては、以下のようなものがあります。

(1)契約で定める債務の内容

契約で定める債務の内容が明確であるかについて確認します。

目的物がある場合には、目的物を詳細に特定する必要があります。

債務の内容について不明確であったり、疑義が生じやすい内容となっていたりすることが多いので、注意してください。

(2)支払金額、方法、期限

支払金額が重要であることは言うまでもありませんが、十分に確認をしてください。また、支払い条件がある場合には、その内容が明確であるかが重要です。

支払い方法については、振込とする場合には振込手数料がどちらの負担となるかについても確認してください。

また、分割なのか、一括なのか、いつまでに支払うのかが明確に記載されているかについて確認してください。

(3)解除、損害賠償

民法上の契約の解除とは別に、一定の事由が生じた際に解除できる旨を規定する条項を設けることが多くあります。

また、解除の際の損害賠償請求についても規定することが検討されます。

損害賠償の予定について定めると、債権者が損害賠償額を立証する手間を省くことができるため、多く用いられています。

(4)特約

定型の契約書を用いているが、特約で一方当事者に大幅に不利な内容の特約が入っていて、それを見落としてしまっているというようなケースもよくあります。

特約についても、十分に注意をして確認するようにしてください。

契約書のリーガルチェックで確認すべきポイントは、これらの他にも多数ありますので、心配な点がある場合には、弁護士への相談が役に立つでしょう。

京都の益川総合法律事務所では、中小企業法務に力を入れて取り組んでいます。

弁護士による契約書のリーガルチェックに興味のある方や顧問弁護士について気になっているという方はお気軽にご相談ください。

使用者責任とは何か、使用者責任の要件などについて

2023-05-19

従業員が業務中に会社の車で交通事故を起こしてしまったケースなど、会社の従業員が業務中にトラブルを起こしてしまった場合、トラブルの相手方から会社に対して損害賠償請求をされてしまうことがあります。

使用者は、被用者が事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任(使用者責任)を負うとされているためです(民法715条)。

今回は、使用者責任とは何か、使用者責任の要件などについて、京都の弁護士が解説します。

相手方から使用者責任を主張された場合などに、ぜひ参考にしてみてください。

1 使用者責任とは

使用者責任とは、ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負うというものです。

これは、報償責任の原理という、使用者が自分の業務のために被用者を用いることで事業活動上の利益をあげているのであるから、使用者は被用者による事業活動の危険を負担すべきである(「利益の帰属するところに責任も帰属する」)という考え方などに基づきます。

この点、被用者が公務員の場合には、同趣旨の国家賠償法1条が適用されますが、民法715条の場合と違って、判例では、公務員の職務行為について対外的に損害賠償責任を負うのは国や地方公共団体のみで、公務員個人は被害者には直接の賠償責任を負わないとされています。

2 使用者責任の要件

使用者責任の要件は、①被用者の行為が不法行為の要件を充たすこと、②使用関係があること、③被用者の不法行為が事業の執行について行われたこと、④使用者に免責事由がないこととされています。以下、具体的にみていきましょう。

(1)①被用者の行為が不法行為の要件を充たすこと

まず、被用者の行為が不法行為の要件を充たす必要があります。

使用者責任は、被用者の責任を使用者が代わって負担する責任である(代位責任)とされており、被用者の不法行為を前提とするからです。

(2)②使用関係があること

使用者が被用者を使用するという関係が必要となります。

これは、事実上の指揮監督の下に他人を仕事に従事させることを意味するもので、実質的な指揮監督関係があればよく、契約の存否、報酬の有無、期間の長短を問いません。

たとえば、下請人の被用者を元請人が指揮監督しているときは、契約の存否は問われず、元請人が使用者とされます。

実質的な指揮関係があるかについては、作業に当たっての個別の指示が重視されます。争いになった場合には、この点について十分な主張立証ができるかがポイントになるでしょう。

(3)③被用者の不法行為が事業の執行について行われたこと

被用者の不法行為は、使用者の事業の執行について行われたことが必要です。

ここで、「事業」というためには、一時的・継続的、営利・非営利、適法・不適法を問いません。

また、「事業の執行について」といえるかは、行為の外形から観察して、被用者の職務の範囲内とみられればよいとされています。

取引的不法行為(取引が行われる場面で被用者が職務権限を逸脱・濫用する場合)と事実的不法行為(被用者の交通事故・暴行などの場合)に分けて考察されます。

(4)④使用者に免責事由がないこと

使用者は、ⅰ被用者の選任および事業の監督につき相当の注意を払ったことを証明するか、または、ⅱ相当の注意をしても損害が発生していたであろうということを証明すれば免責されます(民法715条1項ただし書)。

しかし、これらの免責が認められた裁判例はほとんどなく、事実上認められていません。

3 被用者と使用者との関係

使用者責任が認められた場合、被害者は、使用者に対する損害賠償請求ができるほか、被用者に対して損害賠償請求をすることもできます。

この場合、使用者が負う損害賠償債務と被用者が負う損害賠償債務は、「不真正連帯債務」の関係になるとされています。なお、使用者責任を負う使用者が複数いる場合にも、各損害賠償義務は不真正連帯債務となります。

「不真正連帯債務」とは、通常の連帯債務よりも各債務者のつながりが薄い連帯債務ですが、通常の連帯債務と同様に、複数の債務者が全額を賠償すべき債務のことをいいます。そのため、もし、被害者が会社に全額を払うよう請求した場合には、会社は、被害者に対して、被用者に請求するよう求めることはできず、全額を支払う必要があります。

今回は、使用者責任について解説しました。

京都の益川総合法律事務所では、企業法務に力を入れており、相手方から使用者責任を主張される事案についても取り扱っています。特に、相手方から内容証明郵便にて使用者責任を主張されているような事案に関しては、早期の弁護士への相談が役立つことと思われます。

当事務所は、1983年の創業以来、様々な業種の会社の顧問弁護士として、多種多様なご相談を解決してきました。顧問弁護士がいれば、このような場合にも、スムーズな対応ができるでしょう。

相手方から使用者責任を主張されて困っている会社の方、顧問弁護士に興味があるという方は、お気軽に当事務所までご相談ください。

顧問弁護士については、「顧問弁護士をお考えの方へ」「顧問弁護士に依頼できる内容や契約すべきタイミング」というページで詳しく解説しています。

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