コラム
二重処分の禁止と不遡及の原則について弁護士が解説
企業が行う懲戒処分(従業員の企業秩序違反などに対する制裁罰)が有効とされるためには様々な要件があり、そのうちに二重処罰の禁止と不遡及の原則というものがあります。
この記事では、二重処分の禁止と不遡及の原則について弁護士が解説します。
従業員の懲戒処分を検討している会社の方は、ぜひ参考にしてみてください。
1 二重処分の禁止とは
二重処分の禁止とは、同一の事案について二度の懲戒処分を行うことは許されないというものです。懲戒処分が一種の制裁罰であることから、刑事罰に関する二重処分の禁止の原則が適用されると考えられています。
たとえば、不正行為について戒告処分を行い、その後、同一の不正行為について再度懲戒処分を行うということはできません。
二重処分の禁止に抵触するかについては、前の懲戒対象行為と新たな懲戒対象行為とが実質的に同一であるかという観点によって判断されます。
裁判例においても、以前の懲戒対象行為と新たな懲戒対象行為との間で同一性ないし関連性を肯定し、新たな懲戒対象行為についての懲戒処分を二重処分に当たり無効とするものがあります。
2 不遡及の原則とは
不遡及の原則とは、新たに作成した懲戒処分の種類や懲戒事由を、それ以前の行為に適用することはできないという原則です。二重処分の禁止と同様に、懲戒処分が一種の制裁罰であることから、刑事罰に関する不遡及の原則が適用されると考えられています。
これにより、懲戒処分は、懲戒対象行為が行われた当時の就業規則に基づいて行われることとなり、懲戒対象行為が行われた当時に存在しなかった懲戒規定に基づいて行うことはできません。
3 まとめ
企業が懲戒処分を行うにあたっては、この記事で解説した二重処分の禁止や不遡及の原則を含め、様々な法的ルールについて検討する必要があります。
京都の益川総合法律事務所では、企業側の労働トラブルのサポートに力を入れて取り組んでいます。お困りの企業の方は、お気軽にご相談ください。
なお、懲戒処分の種類については、「懲戒処分の種類について弁護士が解説」というページで詳しく解説しています。
解雇予告、解雇予告手当とは何か?
会社が従業員を解雇する場合、一定のルールに従って行う必要があります。
この記事では、解雇をする場合のルールのうち、解雇予告、解雇予告手当とは何か?について京都の弁護士が解説します。
従業員の解雇を検討しているという会社の方は、ぜひ参考にしてみてください。
1 解雇予告
使用者が従業員を解雇しようとする場合、少なくとも30日前までには解雇の予告をする必要があります。
解雇予告を口頭ですることもできますが、解雇予告を行ったという証拠を残すために、「解雇予告通知書」を作成し、これを渡すことが通例となっています。
2 解雇予告手当
解雇予告をせずに解雇する場合、30日分以上の平均賃金を支払う必要があります(解雇予告手当)。
(1)計算方法
1日あたりの平均賃金は、原則として、直近3か月間に、労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で除した金額をいいます。
(2)解雇予告手当の支払時期
即時解雇をする場合には、解雇と同時に支払うことが必要であり、解雇予告をする場合には、解雇の日までに支払うことが必要です。
3 解雇予告が不要な場合
「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」又は「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合」は、解雇予告や解雇予告手当の支払いが不要となります。
たとえば、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」としては、地震によって工場が倒壊して事業の継続が不可能になった場合など、「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合」としては、会社において労働者が窃盗や横領、傷害事件を起こした場合などが考えられます。
もっとも、使用者は、解雇予告や解雇予告手当の支払いを不要とするには、所轄労働基準監督署長から除外認定を受けることが必要となります。
なお、懲戒解雇を行う場合は、常に解雇予告は不要と思っておられる方もいるようですが、そうではありませんので、注意して下さい。
また、次の場合にも、解雇予告義務、解雇予告手当支払義務はないとされています。
- 日日雇い入れられる者(1か月を超えて引き続き使用されるに至った場合は除く)
- 2か月以内の期間を定めて使用される者(契約期間を超えて引き続き使用されるに至った場合は除く)
- 季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者(契約期間を超えて引き続き使用されるに至った場合は除く)
- 試用期間中の者(14日間を超えて引き続き使用されるに至った場合は除く)
4 まとめ
この記事では、解雇予告、解雇予告手当とは何か?について解説しました。
京都の益川総合法律事務所では、企業法務に積極的に取り組んでいます。
従業員の解雇を検討しているという企業の方は、お気軽にご相談ください。
「管理監督者」の残業代について弁護士が解説
管理職には残業手当を払う必要はないとお考えの企業の方もいらっしゃるのではないでしょうか。管理職であっても「管理監督者」に当たらない場合には、残業代の支払いが必要です。
この記事では、「管理監督者」の残業代について、京都の弁護士が解説します。
社内でどのような地位にある労働者を「管理監督者」とするか検討されている会社の方は、ぜひ参考にしてみてください。
1 「管理監督者」とは
「管理監督者」とは、労働条件の決定その他の労務管理について、経営者と一体的な立場にある者を指します。
「管理監督者」に当たる場合には、労働基準法に定める労働時間、休憩、休日に関する規制を受けません。
そのため、「管理監督者」に当たる場合には、残業代を支払う義務はありません。
もっとも、深夜手当については支払う義務が発生します。
2 「管理監督者」に当たるかの判断基準
では、「管理監督者」に当たるかについては、どのように判断されるのでしょうか。
これについては、名称ではなく、職務内容、責任と権限、勤務態様、地位にふさわしい待遇がなされているか等の実態に即して判断すべきとされています。
これについて、裁判例では、①職務内容・権限、②労働時間管理に裁量があるか等、③地位にふさわしい賃金処遇等があるかといった点を考慮して判断しています。
このように、「店長」、「課長」といった名称を与えられているからといって、その名称だけで「管理監督者」に該当するというわけではありません。
3 まとめ
以上のとおり、「管理監督者」に当たるかについては、上述した点などを考慮して実態に即して判断されます。
京都の益川総合法律事務所では、企業法務に力を入れて取り組んでいます。
お困りごとのある会社の方は、お気軽にご相談ください。
合意書などにある「清算条項」とは何か?
企業の取引に関連して、あるいは個人間のトラブルに際して合意書などを作成することがあります。
合意書などの内容を検討される際に、「清算条項」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、合意書などにある「清算条項」とは何かについて京都の弁護士が解説します。
合意書などの内容を検討しているという方は、ぜひ参考にしてみてください。
1 清算条項とは
清算条項とは、当事者間において、合意書などに記載した内容の権利関係が存在するのみであり、それ以外の債権や債務が存在しないことを確認するものです。
これにより、紛争の蒸し返しを防止することができます。
たとえば、後から同じ問題について、追加で損害賠償請求をされてしまうというような事態を防ぐことができるのです。
文言としては、「甲及び乙は、甲と乙との間には、本合意書に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する。」などといった内容の条項が記載されます。
2 清算条項に関する注意点
清算条項は、紛争の蒸し返しを防止するという点からとても重要なものですが、本当に当該事案において、清算条項を記載してもよいのかについては十分な検討が必要です。
たとえば、当事者間で別にもトラブルがある場合には、先ほどのような「甲及び乙は、甲と乙との間には、本合意書に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する。」という清算条項が記載された合意書が作成されてしまうと、別のトラブルに関する請求が困難になってしまいます。
合意書などに記載した内容ですべて解決したといっていい事案なのか、別にトラブルや、請求したいものがあるという事案なのか、しっかりと見極める必要があります。
このように、清算条項を記載するか、また、その内容をどのようなものにするかは非常に重要ですので、弁護士も合意書などの作成の際にはかなり気を配るポイントとなります。
2 まとめ
この記事では、清算条項について解説しました。
合意書の作成を検討しているという方は、益川総合法律事務所にお気軽にご相談ください。
整理解雇について弁護士が解説
会社の業績が悪化した場合などに整理解雇が行われることがあります。
もっとも、整理解雇の有効性については、労働者の雇用確保という観点から厳しく判断されることとなります。
この記事では、整理解雇について京都の弁護士が解説します。
整理解雇を検討している企業の方はぜひ参考にしてみてください。
1 整理解雇とは
整理解雇とは、不況や経営不振などの使用者の経営上の理由による人員削減のための解雇をいいます。
労働者側の事情ではなく使用者側の事情による解雇となることから、次の判断枠組みにより、厳しく判断されます。
2 整理解雇の有効性についての判断枠組み
(1)整理解雇の必要性
人員の削減につき、経営上の必要性に基づいて実施される必要があります。
裁判例によって、この必要性をどの程度厳格に要するとするのかについての判断が分かれています(たとえば、整理解雇をしなければ直ちに倒産の危機に瀕する程度に差し迫った必要性を要するのか、経営上の合理的理由があれば足りるのか)。
(2)解雇を回避する努力
会社は、配置転換、出向、退職勧奨、希望退職の募集など、整理解雇を回避するための努力をしなければいけません。
解雇を回避する努力についても、具体的にどの程度のことが要求されるかについては、最大限の経営上の努力を尽くす必要があるとする見解や、解雇を回避することができる相当の経営上の努力で足りるとする見解などがあります。
(3)人選基準や人選の合理性
公正であること、合理的に行われることが求められるため、人選基準が客観的に合理的であり、その運用も合理的である必要があります。
人選基準については、抽象的な基準、使用者の恣意が介在する余地が大きい基準については、人選基準の合理性が否定されるおそれがあります。
(4)解雇手続きの妥当性
会社は、労働者・労働組合に対して整理解雇の必要性と具体的な実施方法等について十分に協議、説明をしなければなりません。
裁判所は、これらの4つの要件(要素)によって、整理解雇の有効性を判断するのです。
3 まとめ
以上みてきたとおり、整理解雇については、厳格な判断がなされています。
京都の益川総合法律事務所では、企業法務に力を入れて取り組んでいます。
整理解雇を検討しているという企業の方は、お気軽にご相談ください。
賃金を減額する方法について弁護士が解説
賃金は、労働者と使用者との間の契約内容であるため、労働者の同意なく使用者が自由に減額できるものではありません。
また、賃金の減額は、労働条件の不利益変更にあたるため、適切な手続きが必要です。
この記事では、賃金を減額する方法について京都の弁護士が解説します。
従業員の賃金の減額を検討している企業の方はぜひ参考にしてみてください。
1 賃金を減額する方法
賃金を減額する方法としては、以下のものがあげられます。
(1)就業規則の変更
労働契約法は、原則として、使用者は労働者と合意することなく就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないとしています(9条本文)。
もっとも、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性などに照らして合理的なものであるときには、労働条件は変更後の就業規則に定めるところによるものとするとしています(10条本文)。
賃金の減額は労働条件の不利益変更に当たるため、変更が合理的なものである必要があります。
(2)労使の個別の合意
労働契約法8条により、労働者及び使用者は、その合意により労働契約の内容である労働条件を変更することができるとされています。
この合意については、明示的もしくは黙示的な合意であるとされています。
明示的もしくは黙示的な合意については、裁判例において、労働者の自由意思に基づくものであるかなどについて、慎重な判断がなされています。
(3)労働協約の改定
労働協約とは、労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する協定です。
労働条件の変更について、使用者と労働組合との間で協議がなされ、合意により労働協約が締結された場合には、規範的効力(労働組合法16条)を有し、原則として合意内容が組合員に適用されます。
もっとも、一部の労働者をことさら不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたような場合には規範的効力は否定されると考えられています。
2 まとめ
以上のとおり、賃金の減額には、適切な手続きが必要となり、それがとられていない場合には、労働者との間でトラブルを招くおそれがあります。
京都の益川総合法律事務所では、企業法務に力を入れて取り組んでいます。
従業員とのトラブルで困っているという企業の方は、お気軽にご相談ください。
賃金の支払に関する原則とは?
労働者の生活を支える賃金が全額確実に労働者に支給されるように、賃金の支払いについては、労働基準法によって、①通貨で、②直接労働者に、③全額を、④毎月一回以上、⑤一定の期日を定めて支払わなければならないと規定されています(賃金支払の五原則。労働基準法24条)
この記事では、賃金支払の五原則について京都の弁護士が解説します。従業員への給与の支払について検討している企業の方はぜひ参考にしてみてください。
1 通貨払の原則
通貨払の原則は、賃金は通貨で支払わなければならず、原則として現物支給を禁じるものです。
通貨とは、日本の通貨を指し、原則として外国の通貨や小切手は認められません。
2 直接払の原則
直接払の原則は、賃金は、直接労働者に支払わなければならないとするものです。
労働者の委任を受けた任意代理人への支払いは、原則として、直接払の原則に反することとなります。
3 全額払の原則
全額払の原則は、賃金は、原則としてその全額を支払わなければならないとするものです。
ただし、給与所得税の源泉徴収や社会保険料の控除など、法令に別段の定めがある場合や、労使の協定があるときも、例外として一部控除することが認められています。
4 毎月払の原則
毎月払の原則は、賃金は、毎月1回以上支払わなければならないとするものです。
この原則の趣旨は、労働者の生活の不安を除くことにあります。
5 一定期日払の原則
一定期日払の原則は、賃金は、一定期日を定めて支払わなければならないとするものです。
この原則の趣旨は、支払期日が不安定となることによって、労働者の計画的な生活が難しくなることを防ぐことにあります。
6 まとめ
賃金支払の五原則については、意外と知らなかった、ということもあると思いますので、この機会に正確に理解されてはいかがでしょうか。
京都の益川総合法律事務所では、企業側の労働法務に力を入れて取り組んでいます。
お困りの方は、お気軽にご相談ください。
民法改正による法定利率の変更について―企業の方へー
2020年(令和2年)4月1日に施行された民法の改正により、法定利率について大きな変更がなされました。
この記事では、民法改正による法定利率の変更について、京都の弁護士が解説します。企業の債権の管理や契約にも影響を与える事項ですので、企業の方は参考にしてみてください。
1 法定利率とは
法定利率とは、契約当事者の間に利率や遅延損害金について合意がない場合に適用される利率のことです。
たとえば、金銭の消費貸借などの場合に当事者の間で利率について合意がない場合には、法定利率が適用されることとなります。
2 改正前の定め
法定利率について、改正前は、一般の債権については民法により年5%、商行為によって生じた債権については商法により年6%とされていました。
これについては、昨今の低金利の情勢の下、法定利率が市場の金利を大きく上回っているため、不公平であるという問題点が指摘されていました。
3 改正後の定め
改正後においては、改正前の問題点をふまえ、市場の金利の水準に合わせるために、民法の法定利率を年3%に引き下げ、あわせて商法の法定利率が廃止されました。
また、市場の金利の動向は今後とも変動することが予想され、将来的に法定利率が市場の金利動向と大幅に離れてしまうことを回避するために、市場の金利動向に合わせて法定利率が自動的に変動する仕組みを採用しています。
具体的には、法定利率は法務省令において定めるところにより3年を1期として、以下の基準により変動します。
各期における法定利率は、直近変動期(法定利率に変動があった期のうち直近のもの)における基準割合と当期における基準割合との差に相当する割合(その割合に1%未満の端数があるときは、これを切り捨てる)を直近変動期における法定利率に加算し、又は減算した割合とする。
ここで、基準割合とは、法務省令で定めるところにより、過去5年間(各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までの各月)における短期貸付の平均利率の合計を60で除して計算した割合(0.1%未満の端数は切り捨て)として法務大臣が告示するものをいいます。
4 まとめ
本記事では、民法改正による法定利率の変更について解説しました。
企業においては、法定利率について正確に把握し、契約書の見直しなどが必要でないか、検討されてみてはいかがでしょうか。
京都の益川総合法律事務所では、企業法務に力を入れて取り組んでいます。お困りごとのある企業の方は、お気軽にご相談ください。
無断欠勤が続く社員への対応について弁護士が解説
無断欠勤が続く社員がいる場合、会社はどのように対応するのがよいのでしょう。
今回は、無断欠勤が続く社員への対応について弁護士が解説します。
1.無断欠勤と解雇
無断欠勤は、労働者の義務違反となり、通常、就業規則において解雇事由として定められています。
だからといって、無断欠勤が続いた場合、すぐさま解雇が有効とされるわけではありません。
無断欠勤が続いた場合であっても、解雇が客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当であることが必要です。
判例では、精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神科医による健康診断を実施するなどしたうえで、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めたうえで休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり、このような対応を採ることなく、労働者の出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして論旨退職の処分を無効としています。
2 まとめ
判例からもわかるように、会社としては、社員の無断欠勤が続いた場合には、具体的な事実関係にもとづき、慎重な対応が求められます。
また、社員の処分を検討するにあたっては、無断欠勤の日付や理由、会社の対応などを記録しておくことが重要です。
無断欠勤が続く社員への対応にお困りの際には、京都の益川総合法律事務所まで、お気軽にご相談ください。
民法改正による消滅時効制度の変更について―企業の方へー(2)
2020年(令和2年)4月1日に施行された民法の改正により、消滅時効制度について大きな変更がなされました。
前回の記事に続いて、この記事では、民法改正による消滅時効制度の変更について、京都の弁護士が解説します。企業の債権の管理にも関わる問題ですので、債権管理をしている企業の方は参考にしてみてください。
2 改正のポイント
(3)③人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の見直し
改正前民法においては、権利を行使できる期間について、不法行為に基づく損害賠償請求権については、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年、債務不履行に基づく損害賠償請求権については、権利を行使することができる時から10年と定められていました。
この点、不法行為に基づく請求とは、契約関係に基づかない請求で、交通事故(通常被害者と加害者の間に契約関係がない)の場合などが例にあげられ、債務不履行に基づく請求とは、契約関係に基づく請求をいいます。
上述した権利を行使できる期間の制限については、人の生命・身体の侵害によるものかといった観点による区別はなされていませんでした。
しかし、人の生命・身体に関する利益は、一般に、財産的な利益等の他の利益と比べて保護すべき度合いが高く、また、生命や身体について被害が生じた後の被害者は、普段通りの日常生活を過ごすことも難しくなってしまうなど、時効完成の阻止に向けた措置を迅速にとることができない状況となってしまう場合も少なくありません。
そこで、改正民法では、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効期間を長期化するという観点から、不法行為に基づく損害賠償請求の場合、債務不履行に基づく損害賠償請求の場合のいずれの場合にも、損害及び加害者を知った時(権利を行使できるのを知った時)から5年、不法行為の時(権利を行使する事ができる時)から20年とされました。
(4)④不法行為の損害賠償請求権の長期の権利消滅期間に関する見直し
改正前民法においては、20年の権利消滅期間について、判例は除斥期間を定めたものであるとしていました。除斥期間とは、期間の経過によって当然に権利が消滅するものであって、時効の中断や停止の規定の適用がなく、除斥期間の適用について信義則違反や権利濫用に当たると主張することはできないとされていました。そのため、長期間にわたって損害賠償請求をしなかったことがやむを得ない場合であっても、被害者の救済が図ることができないという不都合がありました。
そこで、改正民法では、この長期の権利消滅期間について、消滅時効期間としました。
これによって、時効の更新・完成猶予の規定が適用され、また、消滅時効の援用について、信義則違反や権利濫用と主張することができるようになりました。
3 まとめ
本記事では、消滅時効制度の概要、改正のポイントのうち、③人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の見直し、④不法行為の損害賠償請求権の長期の権利消滅期間に関する見直しについて解説しました。
消滅時効制度について正確に把握することは、企業の債権管理にとって重要なポイントとなります。
前回の記事でもお伝えしましたが、改正のポイントのうち、①職業別の短期消滅時効の見直しが特に重要なので、正確に把握することが有用となります。
京都の益川総合法律事務所では、企業法務に力を入れて取り組んでいます。お困りごとのある企業の方は、お気軽にご相談ください。
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