近年、会社内での、パワハラ防止に対する意識が高まってきています。
そして、パワハラが原因で、従業員がうつ病などに発症した場合、労災に認定されることもあります。
そこで、今回は、①パワハラで労災に認定される基準や、②パワハラに関する問題が会社内で発生した場合に、会社が取るべき対応方法について、会社側で労働問題に注力している弁護士が解説します。企業の経営者の方や、担当者の方は、是非参考にしてみて下さい。
このページの目次
1.パワハラに関する労災認定基準
下記の3つの基準を満たす場合には、パワハラが労災として認定されます。
(1)労災認定の対象となる精神障害を発病していること
まず、一つ目は、労災認定の対象となる精神障害を発病していることです。
パワハラで、労災が認定されるためには、一定の精神障害にかかったことが前提となります。
業務に関連して発病する可能性のある、代表的な精神障害は、うつ病や、急性ストレス反応、適応障害などですが、労災認定の対象としては、これらのみならず、下記のものも認められています。
■労災認定の対象となる精神障害
①統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害
②気分[感情]障害
③神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害
④生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群
⑤成人の人格及び行動の障害
⑥知的障害〈精神遅滞〉
⑦心理的発達の障害
⑧小児〈児童〉期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害、詳細不明の精神障害
(2)精神障害の発病前おおむね6か月間に、パワハラによる「強い心理的負荷」を受けたこと
2つ目は、①発病前のおおむね6か月間に、②パワハラによる「強い心理的負荷」を受けたことです。
①の期間については、パワハラが継続して行われていた場合には、発病前6か月間に限定されず、パワハラが始まった時点からの心理的負荷で評価されます。
②の、パワハラによる「強い心理的負荷」が認められるのは、次のような場合です。
■強い心理的負荷が認められる場合
1.上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合
2.上司等から、暴行等の身体的攻撃を反復・継続するなどして執拗に受けた場合
3.上司等から、次のような精神的攻撃等を反復・継続するなどして執拗に受けた場合
(1)人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
(2)必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
(3)無視等の人間関係からの切り離し
(4)業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求
(5)業務上の合理性なく仕事を与えない等の過小な要求
(6)私的なことに過度に立ち入る個の侵害
4.上司等から、後述の心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社がパワハラがあると把握していても適切な対応がなく、改善されなかった場合
■強い心理的負荷が認められない場合
以下の場合には、強い心理的負荷とは認められず、原則、労災とは認定されません。
但し、上記「4」の通り、会社に相談しても又は会社がパワハラがあると把握したのに、会社において適切な対応がなく、改善されなかった場合には、労災認定される可能性が高くなってしまいます。
上司等による次のような身体的攻撃・精神的攻撃が行われ、行為が反復・継続していない場合(心理的負荷「中」程度)
(1)治療を要さない程度の暴行による身体的攻撃
(2)人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を逸脱した精神的攻撃
(3)必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
(4)無視等の人間関係からの切り離し
(5)業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求
(6)業務上の合理性なく仕事を与えない等の過小な要求
(7)私的なことに過度に立ち入る個の侵害
(3)業務以外の心理的負荷やその人固有の要因により、精神障害を発病したとは認められないこと
3つ目は、①業務以外の心理的負荷や、②その人固有の要因により、精神障害を発病したとは認められないことです。
これらが認められると、パワハラと精神障害との因果関係が否定されるためです。
①の業務以外の心理的負荷とは、例えば、下記のようなものがあげられます。
(1)自身が離婚又は別居した
(2)自身が重い病気や怪我をした
(3)配偶者や子ども、親や兄妹といった家族が亡くなった
(4)配偶者や子どもが重い病気や怪我をした
(5)親類の誰かで世間的にまずいことをした人が出た
(6)多額の財産を損失した
(7)犯罪に巻き込まれた
このような業務以外のプライベートでの心理的負荷があった場合には、これらが発病の原因ではないといえるかが慎重に判断されていくことになります。
次に、②のその人固有の要因とは、被害者が過去にも精神障害になっていたり、アルコール依存症があった場合などが挙げられます。
このような、個体型要因がある場合にも、それらの要因が発病の原因でないといえるかを、慎重に判断してくことになります。
2.パワハラが発生した場合の企業の対応方法
社内でパワハラ問題が発生したにもかかわらず、会社が適切な対応をしなかった場合、上記の通り、労災と認定される要素にもなってきます。
そして、パワハラが労災と認定された場合には、会社がその従業員から損害賠償請求を受けたり、SNSやマスコミの報道などにより、社会的な非難を受けることも考えられます。
従業員からパワハラ被害の申告を受けた場合には、当事者から事実関係を迅速かつ正確に確認したり、被害者に対して適切な配慮措置を実施することが必要になってきます。
3.最後に
今回は、パワハラに関する労災認定基準や、パワハラ問題が発生した場合の企業の対応方法などについて、解説いたしました。
社内のパワハラ問題に関しては、人的関係などから、企業内のみでの対応が難しいことも多く、そのような場合には、是非とも弁護士をご活用下さい。
当事務所は、1983年の創業以来、中小企業の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。
パワハラ案件についても、多数の対応経験を有しており、パワハラ問題に関する、企業側の対応策を熟知していると自負しております。
パワハラ問題でお悩みの事業者の方がおられましたら、お気軽に当事務所までご相談ください。
■参考情報
厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署
https://www.mhlw.go.jp/content/000637497.pdf
精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(令和5年7月)