労働審判(ろうどうしんぱん)とは、雇用者と労働者との間で発生した労働トラブルを解決するための裁判所における専門的な手続きです。
1名の労働審判官と2名の労働審判員が担当し、実情に即して迅速で適正な解決をはかります。
平成18年4月に開始された比較的新しい制度です。
企業が従業員とトラブルになると、労働審判を申し立てられる可能性があります。
原則として3回以内の期日で審理を終えることとなるため、企業側としては当初の段階から適切に対応しなければなりません。
今回は労働審判の特徴や流れなどの概要を弁護士がご説明しますので、労働トラブルへの備えとして参考にしてみてください。
このページの目次
1 労働審判の特徴
労働審判には、以下のような特徴があります。
(1)スピーディな解決
労働審判の期日は原則として3回までであり、1回目や2回目で解決するケースも多数あります。
申立てから終結までの期間は、およそ77日で約2か月半となっています。
迅速な解決が可能となるのが1つ目の特徴です。
(2)話し合いによる柔軟な解決が可能
労働審判が始まると、まずは調停による話し合いでの解決を目指します。
お互いの譲り合いによる柔軟な解決が可能です。
審判になった場合にも、裁判所は紛争解決のために相当な事項を定めることができます。
たとえば、企業側が労働者へ金銭を支払う場合でも分割払いを設定したり、支払いに条件をつけたりして、実態に即した解決方法を示せます。
(3)労働関係の専門家が関与する
労働審判においては、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名で組織する労働審判委員会が手続きを進めます。
労働審判員という、雇用関係の実情や労使慣行等に関する詳しい知識や経験を持つ者が審理、判断に加わるということも、労働審判の大きな特徴です。
2 労働審判で解決できる労使トラブルの種類
労働審判では「雇用者と労働者間の労使トラブル」が審理の対象になります。
具体的には以下のような事例がよくあります。
(1)未払い残業代の請求
労働者側が「残業代が適正に払われていない」と考えると、労働審判を申し立ててくる可能性があります。
労働者側の主張が必ず正しいとは限らないので、申立を受けた企業としては内容をしっかり分析して対応しましょう。
(2)不当解雇
解雇要件を欠くと考えられる場合、労働者が不当解雇として労働審判を申し立てる可能性があります。
不当解雇となると、未払い賃金をまとめて払わなければならない等、企業側に大きな損失が発生するでしょう。
労働者側の主張内容に理由があるのか法的観点から検討し、反論できる点は反論すべきです。
(3)ハラスメントのトラブル
セクハラやパラハラなどのトラブルが起こった場合でも、労働者が企業の責任を追求して労働審判を起こす可能性があります。
3 労働審判の手続きの流れ
労働審判の手続きは、おおむね以下のような流れで進みます。
STEP1 労働審判の申立て
多くの場合、労働者が申立人となって労働審判を申し立てます。
管轄は、使用者の本店所在地や事業所所在地を管轄する地方裁判所となることが多いです。
STEP2 雇用者側への通知
労働者側の申立内容に不備がない場合、申立が裁判所で受理されて労働審判の期日が指定されます。
特別の事由がある場合を除き、第1回目の期日は申立てから40日以内となるのが原則です。
期日が決まると、企業側へ期日の呼出状や申立書、証拠、証拠説明書などの書類が送付されます。
STEP3 答弁書の提出
企業側の言い分がある場合、労働審判官が定めた期日までに答弁書や証拠書類を提出しなければなりません。
STEP4 第1回期日
第1回目の期日では、争点や証拠の整理、証拠調べがなされ、調停による話し合いが試みられます。
調停案に当事者双方が同意すると、調停が成立して解決します。
合意できなければ第2回期日の日程を決めます。
なお、簡明な事案で、調停の成立が見込めないような場合には、第1回期日に労働審判が出されることもあり得ますし、複雑な事案であり、労働審判による紛争解決に馴染まないとして手続きが終了する場合もあります。
STEP5 第2回期日
第2回目の期日では、第1回期日と同様に、争点や証拠の整理、証拠調べ、場合によっては口頭での意見陳述がなされ、また、話し合いを続行します。
両者が合意できれば調停が成立して事件が終了しますが、合意できなければ第3回目に持ち越されます。
労働審判が出されることがあり得るのは、第1回期日と同様です。
STEP6 第3回期日
第3回目の期日では、主に調停の試みがなされます。
合意できない場合には調停は不成立となり、審理の終結が宣言され、労働審判が告知されます。
STEP7 労働審判
労働審判委員会から審判が告知されます。
審判は話し合いではないので、希望通りの内容になるとは限りません。
2週間以内に双方から異議申立てが行われない場合、審判が確定します。
STEP8 異議申し立て
審判に対しては双方から異議申し立てが可能です。
異議申し立てがあると労働審判は、効力を失い、手続きは自動的に訴訟へ移行します。
異議申し立ては、審判書の送達や告知を受けた日から2週間以内に行わねばならないので、不服がある場合にはスピーディに対応しましょう。
企業側が労働審判を申し立てられたときには、当初から適切に対応する必要があります。
京都の益川総合法律事務所では企業側の労働案件に力を入れていますので、裁判所から書類が届いたらお早めにご相談ください。