会社が従業員へ損害賠償請求ができるケースと懲戒解雇について

従業員がミスをして会社に迷惑をかけた場合、会社は従業員へ損害賠償請求ができる可能性があります。

ただし、すべてのケースで損害賠償請求できるとは限りません。

今回は、従業員のミスに対する損害賠償請求の可否や従業員の責任の限度について、弁護士が解説します。

従業員から迷惑をかけられてお困りの経営者の方は、ぜひ参考にしてみてください。

1 従業員に損害賠償請求できる2つの法的根拠

従業員が会社に迷惑をかけたとき、一定要件を満たせば会社は従業員へ損害賠償請求ができます

法的根拠は、以下の2種類です。

(1)債務不履行

従業員と会社は、雇用契約を締結しています。

従業員は契約にもとづいて、会社へ労働力を適切な方法で提供しなければなりません。

それにもかかわらず、会社に迷惑をかける不適切な行動をとることは、「債務不履行」となります。

そこで、会社は従業員に対して債務不履行責任にもとづき損害賠償請求ができます。

(2)不法行為責任

従業員が故意や過失によって違法行為を行い、会社に損害を発生させると「不法行為責任」が成立します。

この場合にも、会社は不法行為にもとづく損害賠償請求として、従業員へ損害賠償請求できます。

2 従業員の賠償責任は制限される

従業員がミスによって会社に損害を発生させたとしても、すべてのケースで会社が損害賠償請求をできるとは限りません。

裁判例においては、「責任制限の法理」という考え方により、従業員の責任が軽減されるためです。

従業員は、会社の命令に従って仕事をしており、会社は従業員の労働によって利益を受けています。

また、従業員は会社の命令に従って危険業務につく可能性もあります。会社と従業員の経済力の差も重大であり、この点についても意識しなければなりません。

それにもかかわらず、ミスをした場合に限って従業員に全面的な損害賠償義務を負わせるのは信義則に反するといえるでしょう。

3 従業員に損害賠償責任が発生する基準とは

実際にどういったケースで従業員に損害賠償義務が発生するのか、みてみましょう。

(1)従業員の過失の程度が重い

従業員のミスが重大であれば、従業員側に責任が認められる可能性が高くなります。

一方、軽度なミスであれば責任は限定されます。

労働条件や施設の状況、会社による指導監督の方法なども考慮されます。

(2)会社の管理体制に問題がなかった

会社の管理体制に問題があったなら、会社が損害についての責任をとるべきです。

一方、管理体制に問題がなければ従業員側に問題があったと考えるべきでしょう。

業務の性質、業務の形態、長時間労働や深夜勤務がなかったか、保険加入の有無なども考慮されます。

(3)ミスを防止する措置をとっていた

会社が従業員のミスを防止する措置を適切にとっていたなら、従業員側に責任があると考えられます。

会社が過去の同じようなミスに注意をした経緯があるか、再発防止措置をとっていたのかなども考慮されます。

4 会社が従業員へ損害賠償請求できるケースの具体例

以下のような事例においては通常、会社側が従業員へ損害賠償請求できると考えましょう。

  • 金融機関で従業員が自己判断で与信枠を超えて貸し付けた
  • 従業員が会社のお金を横領した
  • 従業員が相手と結託して架空の貸付を行った
  • 検査員が支店長の横領や架空貸し付けを見抜けなかった
  • 居眠りによって不良品を生じさせた
  • 不注意で宝石類が入ったカバンを盗まれた
  • 仕様と異なる注文書が提示されたのに見逃した
  • 現場監督を怠って越境した伐採が行われてしまった
  • 請求書を送り忘れて債権回収できなくなってしまった

5 損害の全てを賠償されるとは限らない

従業員に損害賠償責任が発生するとしても、全額の賠償が認められるとは限りません。

会社による管理が不十分だったケースなどでは、会社にも一定の責任を負わせるべきだからです。

発生した損害のうち、どの程度が賠償の対象になるかは個別に判断されます。

正確に算定するには過去の裁判例と照らし合わせる必要があるので、迷ったときには弁護士へ相談してみてください。

6 ミスをした従業員を懲戒解雇できる場合

従業員がミスをして会社に迷惑をかけた場合、懲戒解雇できる可能性があります。

ただし、常に懲戒解雇が有効になるとは限りません。以下の要件を満たす必要があります。

  • 懲戒に関する就業規則の規定がある
  • 会社へ損害を与えることが懲戒事由となっている
  • 懲戒解雇が相当なほどの重大なミスである

そもそも、就業規則で懲戒に関する規定がなければ懲戒解雇はできません。

また、従業員の行為に対し、重すぎる処分も無効となってしまいます。

無効な懲戒解雇を行うと、後に従業員から「不当解雇」と主張されて労働審判や労働訴訟を提起されるリスクも発生します。

自己判断で懲戒解雇を行わず、まずは弁護士にアドバイスを求めましょう。

京都の益川総合法律事務所では、各業種、業態、規模の企業の労務管理対策に力を入れています。

従業員のミスや故意によって損害を与えられてお困りの方は、お気軽にご相談ください。

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