暴言でのパワハラの労災認定を否定した裁判例について、企業側の弁護士が解説

近年、社会全体で、パワハラ防止に対する意識が高まっています。

そして、従業員がうつ病などに発症した際に、従業員側から、パワハラでの労災認定を主張されることもあります。

これまでの記事でも、パワハラに関する労災認定の基準や(「パワハラで労災認定される?企業の対応方法についても解説」)、パワハラでの労災認定を否定した裁判例について(「パワハラによる労災認定を否定した裁判例について、企業側の弁護士が解説」)、解説してきました。

今回は、パワハラによる労災認定を否定した裁判例の第2弾の解説です。今回の裁判例は、会社代表者が従業員に対して、かなり強めの暴言を吐いていたケースです

従業員からパワハラでの労災認定を主張されている、会社経営者の方や担当者の方は、参考になさって下さい。

1.パワハラの労災認定基準

まず、パワハラに関する労災認定基準を簡単に解説します。

下記3つの基準を満たす場合、パワハラが労災と認定されます

①労災認定の対象となる精神障害を発病していること

精神障害の発症前おおむね6か月間にパワハラによる「強い心理的負荷」を受けたこと

業務以外の心理的負荷やその人固有の要因により、精神障害を発病したとは認められないこと

より詳しい内容については、「パワハラで労災認定される?企業の対応方法についても解説」にて解説していますので、興味がある方は、参考になさってください。

そして、パワハラが労災認定されるか否かが争いになる場合、多くのケースでは、②の、パワハラによる「強い心理的」を受けた、に該当するか否かが問題になってきます

2.パワハラによる労災認定を否定した裁判例

国・大淀労基署長事件(大阪地裁令和3年8月30日判決)では、営業企画部に配属された従業員が、会社代表者や上司から、暴言等のパワハラを受けたことにより適応障害になった旨主張し、労災認定を求めました。

裁判所は、下記①から③のような従業員に心理的負荷を与えうる事情を認定しましたが、下記のように、これらの事情により、従業員が「強い心理的負荷」を受けたとはいえないと判断し、労災認定を否定しました

裁判所が認定した事実①

会社代表者は、従業員の来館者に対する対応が悪かったなどと感じ、当該従業員(原告)及び先輩従業員に対して注意していたところ、その後の当該従業員及び先輩従業員の対応に不満を抱いて立腹し、当該従業員及び先輩従業員に対し、数分間にわたって、「まだやってんの?電話したかおい!おい!ええかげんにせいよお前!何をやっとんじゃお前は!お前何先帰っとんねんお前」、「対応せい!ほんま。何で怒られとんねんいっつも!まだ電話してないのかほんまに!」、「はよせいお前!子どもかお前。お前ら何回言うたら分かんねん、お前。うっというしいのうこいつら!ちゃっちゃとせんかいそんなもん。何時間使っとんねんお前、何時や思とんねんお前」などと怒鳴り付けた。

また、その約30分後にも、会社代表者は、数分間にわたって、当該従業員に対し、「自分らのすぎたことばっかり言うてほんま。お前心臓強いなお前。えらいやっちゃのう。」、「お前何しに来とんねんて!新卒やろお前!」、「何が出来んねんてお前に一体」、「一生懸命やらんかいじゃあ!」、「訳の分からん話ばっかしやがって!」、「お前そんな偉いさんかえお前!」、「定職に就かんと、正社員にもなれなやん(者に)なるって言ってんねん」などと時に大声で怒鳴り付けて叱責した。

さらに、その約2時間半後にも、当該従業員が、上司からの指示に従ってペーパーテストを受けていたところ、会社代表者が事務所内に入室してきた。会社では、会社代表者が入室した際には挨拶をするよう指示されていたが、当該従業員は会社代表者が入室したことに気付かなかったため、会社代表者に挨拶しなかった。会社代表者は、当該従業員がポケットに手を入れていたことや、日頃から仕事をせず、余計な話が多いなどと不満に思っていたこともあって、当該従業員が挨拶をしなかったことに激高し、数分間にわたって、「お前、何ポケットに手突っ込んどんねん偉そうに!さっきも戻ってきた時、挨拶せえ言うたやろがお前!お前、そんなことしかよぉせえへんのか。挨拶せぇしっかり!」、「仕事もでけへんやつはそれぐらいせえ」などと怒鳴った。当該従業員は謝罪したが、会社代表者は納得せず、段ボール箱を蹴り上げたところ、「ドン」という音が鳴り、その後、当該従業員が「痛い!痛い!やめてください。」と述べたが、会社代表者は、「わけのわからん話ばっかりしやがってお前!なぁ。」、「予約もいっぱい落としやがってお前!何が痛いねんこらぁ!お前!」と大声で怒鳴った。当該従業員が「さっきちょっと蹴られたのが痛かったです」と述べたところ、会社代表者は「蹴ってないやろ!」「いつ蹴ってんお前のこと俺!言うてみ!」などと怒鳴り、当該従業員は謝罪し続けたが、会社代表者はなおも納得せず、当該従業員を叱責し続けた。

・事実①に対する裁判所の判断

会社代表者が当該従業員に対して行った叱責や段ボール箱を蹴り上げるなどの言動は、当該従業員の事務遅滞や会社代表者に対する態度に立腹して行われたものであり、これらを是正させようとする意図がないわけではないが、感情的かつ威圧的な口調で攻撃的な内容の発言をほぼ一方的に続け、更に段ボールを蹴り上げたことに鑑みると、社会通念上、業務指導の範囲を逸脱したものと評価することができる
しかしながら、会社代表者の言動が行われたのはそれぞれ数分間にとどまる上、当該従業員が出勤しなくなった日以降は、会社代表者からもはや叱責されることはなくなったことを踏まえると、当該出来事単体での心理的負荷の強度は、せいぜい「中」にすぎず、心理的負荷の強度が「強」に当たるということはできない

・裁判所が認定した事実②

会社では、従業員に対して、定時でタイムカードを打刻するよう指示しており、従業員が定時後に会社の指示により時間外労働に従事しても、残業代を支払わないという労務管理がされていた。実際に当該従業員も合計6日間にわたり、夜遅くまで時間外労働に従事していた。

・事実②に対する裁判所の判断

上記事実が、労働法上違法と評価されるものであるとしても、当然に、従業員に心理的負荷を与えるものでもないし、本件において、最大でも4時間半程度の残業が合計6日間されたにとどまることに照らすと、当該従業員がした残業が当該従業員と同種の平均的な労働者にさほどの心理的負荷を生じさせるものということはできない。

したがって、上記の点は、当該従業員に心理的負荷を与えるものではない

・裁判所が認定した事実③

当該従業員は、顧客から3月25日のツアーが催行されるかについて電話で問い合わせを受け、予約台帳に3月22日までとの記載があることを確認し、別の従業員1名に確認しただけで、催行されないとの誤った回答をした。

その後、会社代表者は、当該従業員が誤った回答をしたことに立腹し、当該従業員を指導・叱責した。その際、従業員が、最終電車までには帰らせてほしい旨を述べたところ、会社代表者は、そのような従業員の態度について、「反抗」との文言を用いるなどして叱責した

当該従業員は、その後、上司からも指導を受けるとともに反省文や始末書の作成を求められ、会社代表者の面前で反省文の一部を読み上げた。これを受け、会社代表者は、当該従業員に対し、営業職としての心構えを伝えるなどした。当該従業員は、その後、上司の指示により、何度も書き直しながら始末書を作成した

当該従業員は、同日、上司から、時間外労働に従事しても、仕事が遅い者や好きでやっている仕事であれば、残業代を支払う必要はない、営業職の場合、早く帰らせてほしいと述べることは意味がない、などと伝えられた

・事実③に対する裁判所の判断

当該従業員が叱責されるに至った経緯や反省文の記載内容に照らすと、この日に会社代表者が当該従業員を指導・叱責することになった直接の原因は、当該従業員が顧客からの電話での問い合わせに対して誤った説明をしたことにあり、会社代表者は社会人としての心構えを説いたに過ぎないと解される。
また、上司が始末書の作成を指示した上で、その書き方について指導したり、会社代表者の面前で読み上げさせたりしたのも、当該従業員が叱責の発端となった顧客からの問合せに対して誤った回答をした出来事について具体的な事実を記載させ、もって始末書の書き方を習得させることに主眼を置きつつ、併せて上司から指導を受ける姿勢や自ら進んで勉強する姿勢を身に付けさせることも意図していたものと推認されるところである。
そして、会社代表者が当該従業員に対する指導・叱責をする中で、従業員が最終電車までに帰らせてほしいと述べたことについて会社代表者が叱責したのも、当該従業員がツアー催行の有無の問い合わせに対して誤った回答をしたという業務に関する指導を受けている最中に、最終電車までに帰りたいなどと消極的な態度を示したことに対し、当該従業員が自らの話を聞いて理解しようとする態度を示さないものと捉えたことによるとも考えられるのであって、このような会社代表者による叱責が、業務指導の範囲を逸脱した不合理なものに当たるとはいえない。 
さらに、上司が、時間外労働に従事しても、仕事が遅い者や好きでやっている仕事であれば、残業代を支払う必要はない、営業職の場合、早く帰らせて欲しいと述べることは意味がないなどと述べた点についても、業務命令のない残業に対して割増賃金が発生しないことや給料の原資となる収益を上げるために営業が頑張って成果を上げることが重要であることを含意しているものとみることができるほか、仮に、成果がない以上、業務命令に基づく残業に対して賃金を払う必要がないことをいうものであったとしても、労働法上の違法があることが当然に、当該従業員と同種の平均的な労働者にさほどの心理的負荷を生じさせるものではないことは上述したとおりである。
以上によれば、上記認定事実をもってしても、業務指導の範囲を逸脱したものとはいえず、その範囲内での厳しい指導・叱責に当たるにとどまるといえる

そうすると、上記認定事実は、当該従業員が強い指導・叱責を受けたり、指導・叱責後、従業員と会社代表者や上司との間で、周囲からも客観的に認識されるような対立が生じたりした事実はないから、その心理的負荷の強度は「弱い」ものにとどまるというべきである。

・裁判所の総合評価

認定事実①による心理的負荷の程度は「中」にとどまるところ、それ以外の認定事実による心理的負荷の程度は限定的なものにとどまるというべきである。

また、当該従業員の本件会社における就労(実働8日間)、時間外労働の時間、会社代表者が日頃からしばしば従業員を厳しく叱責しており当該従業員のみ差別していたような事情もうかがわれないことを併せ考慮すると、本件会社への入社後わずか10日程度の間に生じた各出来事による心理的負荷の強度が「強」であると評価することは困難であり、「中」にとどまるというべきである。

したがって、労災認定は否定されるべきである。

■弁護士の補足解説

本件では、会社代表者から従業員に対して、かなり強めの暴言が吐かれていますが、裁判所において労災認定が否定されています。

本件で、一番大きい要素は、当該従業員が入社後10日程度しか働いていなかったことです

パワハラでの労災認定の場合には、パワハラの反復継続性が重視される傾向があります。本件でも、当該従業員の勤務日数が長くなっており、パワハラの期間が継続していた場合には、労災認定が肯定されていた可能性が高い事案です。

3.最後に

今回は、パワハラの労災認定を否定した裁判例について紹介しました。

パワハラ問題に関しては、その性質上、自社のみでの対応が難しいことも多いです。特に、従業員からパワハラをしたと主張されている相手が会社代表者の場合には、より一層自社での対応は難しいかと思います。そのような場合には、是非とも弁護士をご活用下さい。

当事務所は、1983年の創業以来、中小企業の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。

パワハラ案件についても、多数の対応経験を有しており、パワハラ問題に関する、企業側の対応策を熟知していると自負しております。

パワハラ問題でお悩みの事業者の方がおられましたら、お気軽に当事務所までご相談ください。

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