昨今、未払退職金を理由として、会社が訴えられることが増えています。
そこで、今回は、未払退職金を理由として訴えられそうな場合や、訴えられた場合の対処方法などについてご説明いたします。
このページの目次
1 未払退職金の発生根拠
退職金の支払いは、法律で義務付けられているわけではなく、必ず支払わなければいけないものではありません。
しかし、会社と従業員との間で、退職金の支払いについての合意がある場合には、この合意に基づいて、未払退職金を支払う必要が出てきます。
一般的には、就業規則や労働契約、労働協約などで退職金の定めがある場合には、それに基づいて退職金の支払義務が発生することになります。
ただし、就業規則などで退職金の定めが無い場合にも、長年の慣行として退職金が支払われている場合などには、未払退職金の支払いが義務付けられる可能性があります。
2 未払退職金の請求に対する反論
(1)退職金の支払合意がない
上記の通り、退職金は当然に発生するものではなく、会社と従業員との間で、退職金の支払いに関する合意がある場合に限り、支払う必要のあるものです。
そのため、就業規則などで退職金の定めがない場合には、退職金の支払合意がない旨の反論をすることになります。
(2)退職金減額・不支給条項の存在
■懲戒解雇の場合
会社の就業規則などにおいて、「懲戒解雇された者については、退職金の全部又は一部を支給しないことがある」などと規定されることが多いです。
そのため、懲戒解雇の場合には、かかる規定に基づく退職金の不支給を検討することになります。
ただし、かかる規定に基づく退職金の不支給が必ず認められるわけではありません。
かかる規定に基づく不支給が認められるためには、労働者の過去の功績を抹消するほどの著しく信義に反する行為があったことが必要になり、慎重な検討が必要になります。
■自己都合退職の場合
会社の就業規則などにおいて、「自己の都合による退職者」については、退職金が減額されていることが多いです。
このような規定がある場合には、相手方が自己都合退職でないかや、相手方の請求金額が減額されている金額であるかを判断することになります。
(3)時効により消滅している
未払退職金は、5年で時効により消滅します。
そのため、相手方の未払退職金の請求が、時効により消滅していないかを検討することになります。
3 元従業員から内容証明が届いた場合(訴えられそうな場合)
(1)事実関係の調査
内容証明が届いた場合、その中で相手方の主張する未払退職金の金額や、その根拠が記載されていることが多いです。
そこで、まずは、相手方の主張する未払退職金の金額や根拠が正しいのかを調査することが必要になります。
(2)交渉する
内容証明が届いた場合、その中で未払退職金の請求がされていることが通常です。
そこで、①その金銭を支払うのか、②減額の交渉をするのか、③金銭の支払いを一切拒否するのかを決断し、相手方と交渉する必要があります。
もし、交渉が決裂すれば、労働審判や裁判などで訴えられる可能性が高いです。
そのため、内容証明が届いた時点で訴えられそうな状況であるといえます。
(3)弁護士への相談
内容証明が届いた場合、その時点で弁護士へ相談することが重要です。
というのも、弁護士は法律のプロですし、企業法務を取り扱っている弁護士であれば、その時点で会社がとるべき行動を知っているためです。
自社で対応しようとしても、冷静な観点から客観的に判断することは難しいですし、場合によっては、事実に反する不利な証拠を相手方に渡してしまうことさえあります。
そのため、訴えられそうといった早い段階から、弁護士に相談することが重要になってきます。
4 訴えられた場合
(1)事実関係の調査
訴えられた場合には、裁判所を通じて、相手方からの書面が送られてくることになります。
この書面の中には、相手方の主張する未払退職金の金額や、それを裏付ける証拠が含まれています。
そこで、まずは、相手方の主張の適否について、調査をする必要があります。
(2)書面の作成
訴えられた場合、会社側は反論の書面を作成する必要があります。
この書面においては、相手方の主張が誤っている点や、会社側が認識している事実及びそれを裏付ける証拠などを引用することになります。
特に、労働審判の場合、この反論の書面提出まで、時間がかなりタイトなため、速やかに準備をすることが必要になってきます。
(3)弁護士への依頼
訴えられた場合には、速やかに弁護士に相談することが重要になります。
裁判においては、提出する書面の内容と証拠が極めて重要になってきますが、適切に書面を作成し、証拠を収集するには、弁護士の力が必要不可欠です。
未払退職金で訴えられた場合、書面提出の締切日まで、時間があまりない可能性もあるため、速やかに弁護士に相談に行くことが重要です。
当事務所は、1983年の創業以来、東証一部上場企業から中小企業、個人事業主の方の顧問弁護士として、多数の労働問題を解決してきました。
もし、未払退職金を理由として訴えられそうな場合や訴えられた場合には、お気軽に当事務所までご相談下さい。