コラム
無断欠勤を理由に解雇できる?注意点や対処法を弁護士が解説
従業員の無断欠勤が続いた場合、その従業員を解雇しようとお考えになる経営者の方も少なくありません。
しかし、無断欠勤を理由に、従業員を解雇したとしても、不当解雇であるとして、企業側が敗訴する事例もあります。
そこで、今回は、無断欠勤を理由に従業員を解雇できる相場や、無断欠勤への対処法などについて、弁護士が解説いたします。
1.いきなりの解雇は危険
無断欠勤を理由に、いきなり従業員の解雇を行うのは、会社にとって、極めて危険な行為です。
なぜなら、労働契約法第16条において、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とされているからです。
裁判例上も、無断欠勤を理由に従業員を解雇したものの、「不当解雇」として、企業側が敗訴している事例は多数あります。
「不当解雇」として、企業側が敗訴した場合には、企業がその従業員に対して、解雇日まで遡って賃金を支払う必要があります。仮に、企業と労働者が徹底的に争い、労働訴訟において企業側の敗訴判決が出されるまでに、解雇をしてから2~3年経過している場合には、企業は、2~3年分の賃金を遡って支払わなければなりません。
そのため、無断欠勤を理由に、いきなり解雇をするのは、お勧めできるものではありません。
2.無断欠勤を理由に解雇が認められる相場
裁判例上、無断欠勤を理由に解雇が認められる相場は、従業員が2週間以上、正当な理由なく無断欠勤をして、出社命令にも応じない場合になります。
但し、これはあくまでも目安にすぎず、2週間より期間が短くても解雇が有効になることもありますし、2週間を超えていても解雇が無効にされることもあります。
なぜなら、実際上は、無断欠勤の期間のみならず、無断欠勤の理由や、その従業員のこれまでの勤務態度、無断欠勤により会社に生じた影響等を総合的に考慮して、解雇が有効であるかを判断していくためです。
そのため、「2週間」というのは、あくまで参考程度にされてください。
3.無断欠勤への対処法
3―1 欠勤理由の確認
まずは、無断欠勤をした従業員に対して、欠勤理由を確認してください。
仮に、体調不良など、正当な理由がある場合には、解雇は視野に入らない形になります。
但し、体調不良の裏付けなどを求める場合には、診断書等の提出を求めることになります。
3―2 出社命令の発動
従業員が正当な理由がなく無断欠勤を続ける場合には、出社命令を発動することになります。
この出社命令を行っていないと、後に解雇をしたとしても、不当解雇であると判断される可能性が極めて高くなるので、注意が必要です。
電話で出社命令を行っても、証拠として機能しないので、メールやLINE、住所宛の書面の送付(特定記録を付けて)など、証拠として残る形で出社命令を行うことが重要です。
将来的な解雇を視野に入れるのであれば、この出社命令は、一度ではなく、複数回行っておくことが重要です。
3―3 従業員との連絡が取れない場合
無断欠勤が続く場合、そもそも従業員との連絡が取れないことも多いです。
仮に将来的に解雇を視野に入れるのであれば、そのような場合にも、欠勤理由の確認や出社命令を発動しておく必要があります。
従業員との連絡が取れない場合にも、電話の不在着信としてのみ残すのではなく、メールやLINE、住所宛の書面の送付(特定記録を付けて)など、証拠として残る形で欠勤理由の確認や出社命令を行うことが重要です。
また、上記の通り、将来的な解雇を視野に入れるのであれば、出社命令は、一度ではなく、複数回行っておくことが重要になります。
4.解雇の前にまずは自主退職を促す
無断欠勤が続いた場合でも、いきなり解雇をするのではなく、まずは自主退職を促した方がよいです。
なぜなら、解雇に比べて自主退職の方が、後の紛争リスクを格段に下げられるためです。
これは、従業員との連絡が取れない場合も同じで、書面などで自主退職を促せば、従業員側から退職届を送付してくれることもあります。
5.解雇の前に弁護士に相談を
無断欠勤を理由に解雇する前に、弁護士に相談することが大切です。
なぜなら、無断欠勤の原因や就業規則の規定のされ方などによっては、企業側がそもそも、その従業員を解雇できないケースもあり、弁護士にその確認を取る方がよいためです。
また、解雇をするためには、適切な手続きを踏む必要があり、この手続きを踏んでいないと、後に不当解雇と判断されてしまう可能性が高くなります。
後に不当解雇と判断された場合には、上記の通り、解雇日までの賃金を遡って支払う必要が生じ、企業にとって、とても大きな負担になります。
このような事態を生じさせないためにも、解雇前に、弁護士に相談するのが重要になってくるのです。
6.最後に
今回は、無断欠勤と解雇について、企業側で労働問題や紛争案件に注力する弁護士が解説しました。
京都の益川総合法律事務所では、1983年の創業以来、中小企業の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。
従業員が無断欠勤をして、お困りの企業経営者の方やご担当者の方は、お気軽にご相談ください。
解雇の撤回や取消しとは?企業側の弁護士が解説
会社が従業員を解雇した後、従業員から「不当解雇」であると主張された場合、会社が「解雇の撤回」をすることがあります。
これは、解雇の撤回を行う方が、会社にとってメリットが大きいと判断するためです。
そこで、今回は、解雇の撤回や取消しについて、企業側で紛争案件に注力する弁護士が解説いたします。
1.解雇の撤回(取消し)とは
解雇の撤回(取消し)とは、企業が一度行った解雇を撤回して、その従業員に復職を求めることを言います。
この解雇の撤回は、主として、従業員から不当解雇である旨の主張を受けた際に行うものです。
2.なぜ解雇の撤回を行うのか
解雇の有効性が争われている事案で、弁護士が企業の代理人に就任した場合、解雇の撤回を行うこともあります。
これは、その企業にとって、解雇を撤回した方が、メリットが大きいためです。
以下では、なぜ解雇の撤回を行うのかについて、解説します。
2―1 バックペイを回避するため
解雇の撤回を行う一番大きな理由は、いわゆるバックペイを回避するためです。
バックペイとは、解雇が無効と判断された場合に、会社が解雇日まで遡って支払う必要のある賃金をいいます。
会社が解雇について従業員と徹底的に争う場合、「示談交渉→労働審判→労働訴訟」と移行するケースが多いです。そして、労働訴訟において判決が出されるまでに、すでに解雇をしてから2~3年経過しているケースもあります。
仮に、このようなケースで企業が労働訴訟で敗訴した場合、企業は、2~3年分の賃金を遡って支払わなければなりません。
また、解雇事案においては、類型的に企業側に不利な判断をされやすい傾向にあります。
このようなことを踏まえて、バックペイを回避するために、会社が解雇撤回を行うことになります。
2―2 従業員側が復職を拒否することもあるため
2つ目の理由は、従業員側が復職を拒否することもあるためです。
従業員側が不当解雇(解雇無効)を主張する場合、法的にはその従業員は復職を求めていることになります。
しかし、実際上、復職は望まないけれども、バックペイを取得するために、形式上、従業員側が不当解雇を主張していることもあります。
このような場合に、解雇撤回を行うと、従業員側が復職を拒否して、自主的に退職することもあります。
2―3 慰謝料請求を否定する一事情になるため
3つ目の理由が、従業員からの慰謝料請求を否定する一事情になるためです。
従業員側が不当解雇を主張している場合、その従業員は会社に対して、不当解雇を理由とする慰謝料請求も行うことが多いです。
このような場合、解雇撤回を行うことは、慰謝料請求を否定する方向の一事情になりますし、場合によっては、従業員側からの慰謝料請求自体も取りやめになることもあります。
3.解雇撤回の方法
3―1 解雇を撤回する旨の書面の送付
会社から当該従業員に対して、解雇を撤回する旨の書面を送付します。
その内容としては、①解雇を撤回する旨、②復職を求める日時の指定、③復職後の業務内容や賃金などの労働条件などを記載します。
裁判例の傾向からして、②の復職を求める日については、相手方が当該書面を受領してから1週間程度は空けておいた方が無難です。
また、③の復職後の労働条件については、基本的には、解雇前と同様の条件になるでしょう。
この書面については、後に送付の有無や内容が争いにならないように、内容証明郵便で送付するようにして下さい。
■解雇の撤回には、相手方の同意が必要
解雇の撤回を行うためには、当該従業員の同意が必要になります。
これは、民法540条2項が、解除の意思表示は、撤回することができないと規定しているためです。
但し、従業員側から不当解雇(解雇無効)が主張されている事案では、従業員側も解雇の撤回を求めているため、黙示的に解雇の撤回に同意していると判断できるケースがほとんどです。
そのため、実際上は、この点が、問題になることはあまり多くありません。
3―2 社会保険の処理
企業が従業員を解雇した場合、その時点で、社会保険について資格喪失の手続きを行っているはずです。
そのため、解雇を撤回する場合には、資格喪失の訂正(取消)を行う必要があります。
3―3 賃金について
解雇の撤回をした場合、解雇日から撤回日までの賃金を処理する必要があります。
解雇を撤回する以上、基本的には、解雇日から撤回日までの賃金について、企業が負担するとの処理をせざるを得ないでしょう。
4.従業員が復職を拒否した場合
もし、解雇を撤回して、従業員に復職を求めたにもかかわらず、その従業員が復職を拒否した場合には、どのような方法を取ればよいでしょうか。
4ー1 業務命令の発令
まずは、当該従業員に対して、会社に出社するように業務命令を発令することになります。この業務命令についても、書面で行い、内容証明郵便の形で送付するようにしてください。
4ー2 再度の解雇の検討
上記業務命令を発令しても、従業員が出社しなかった場合、再度の解雇を検討することになります。
一般的には、2週間以上、無断欠勤が続いた場合には、解雇を検討することになりますが、再度の解雇の場合には、従前の経緯もあるため、1か月程度は様子を見た方が無難だと考えています。
4―3 解雇撤回後の賃金
解雇を撤回したものの、当該従業員が出社を拒否している場合には、原則として、解雇撤回後の従業員の賃金は発生しないことになります。
厳密には、この辺りも含めて、従業員との間で合意ができないかを模索することになります。
5.最後に
今回は、解雇の撤回や取消しについて、企業側で労働問題や紛争案件に注力する弁護士が解説しました。
京都の益川総合法律事務所では、1983年の創業以来、中小企業の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。
従業員から不当解雇と主張されて、お困りの企業経営者の方やご担当者の方は、お気軽にご相談ください。
弁護士から書面(内容証明郵便)が届いた企業・経営者の方へ
会社経営をしていると、突然、相手方弁護士から書面が届くこともあります。
多くの経営者の方は、突然このような書面が届くと、驚かれるでしょう。
そこで、今回は、弁護士から書面(内容証明郵便)が届いた場合の対処法などについて、企業側で紛争案件に注力する弁護士が解説いたします。
1.内容証明郵便の場合には注意が必要
弁護士からの書面の表題(タイトル)には、「通知書」・「ご連絡」・「請求書」・「催告書」などの記載がされています。
そして、相手方弁護士からの書面の送付に際して、内容証明郵便が利用されている場合には、慎重に対応することをお勧めします。
なぜなら、弁護士が内容証明郵便を利用する時は、示談交渉が決裂した際の、訴訟提起までを視野に入れていることがほとんどだからです。
内容証明とは、いつ、どんな内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、日本郵便が証明するサービスです。多くの弁護士は、内容証明郵便を利用した書面については、訴訟提起の際に証拠として提出します。
ちなみに、書面の末尾に、下記の記載があれば、内容証明郵便になります。
■内容証明郵便の記載
「この郵便物は令和○年○月○日第○号書留内容証明郵便物として差し出されたことを証明します。日本郵便株式会社」
2.相手方弁護士からの書面への対処法
まずは、相手方弁護士からの書面の内容を確認する必要があります。
そして、その書面の中に、事実に反する記載がないかを確認していきます。
もし、事実に反する記載がある場合には、そのことを裏付ける資料(証拠)がないかを確認していきます。
その後、相手方弁護士への回答書面を作成していきます。
多くの場合、相手方弁護士からの書面には締切が記載されているため、ご自身で対応する場合には、その締切を守っておいた方が無難でしょう。もちろん、その締切は、相手方弁護士が一方的に設定したものにすぎませんが、その締切を大きく過ぎた場合には、相手方弁護士が訴訟提起などの措置を取ってくる可能性が高いです。
また、相手方弁護士と電話などで話す場合には、録音を取られている可能性があるので、注意が必要です。違うことはしっかり違うと言っておかないと、訴訟の際に、録音を提出され、電話で認めていたなどの主張を受けてしまう可能性があります。
3.弁護士への相談も
相手方弁護士から書面が届いた場合、弁護士に依頼するかどうかは別にして、速やかに弁護士に相談された方がよいです。
というのも、弁護士でなければ、そもそも相手方の主張が正しいのか、回答に際してどのような点に注意した方がよいのか、どのような証拠を集めればよいのかなども分からないためです。
また、回答書作成に際しては、相手方の請求に法的根拠があるのか、相手方の主張する金額は妥当なのか、相手方の提案内容が合理的なのか等を判定する必要がありますが、そのためには、法律や裁判例への深い理解が必要になります。
当事務所にご相談頂ければ、これらの点も含めて、しっかりアドバイスさせて頂きますので、お気軽にご相談ください。
4.最後に
京都の益川総合法律事務所では、1983年の創業以来、企業の紛争案件をはじめとした企業法務に注力してきました。
これまで、企業の存続に関わるような紛争案件にも多数関わっております。
弁護士から書面が届いて、お困りの企業経営者の方やご担当者の方は、お気軽にご相談ください。
労働問題を未然に防止するためには
過去に、労働トラブルで裁判になったことがある経営者の方の中には、もう従業員との労働問題は発生させたくないと仰る方も多いです。
これは、想像以上に、従業員との裁判が、企業にとって負担だったからでしょう。
今回は、労働問題を未然に防ぐための方法などについて、企業側で労働問題に注力する弁護士が解説いたします。
1.なぜ労働問題を未然に防ぐ必要があるのか
企業の目的は、企業活動を通じて、社会に貢献し、利益を生み出すことにあります。
しかし、従業員との間で労働問題が発生しても、この目的には合致しません。
それどころか、従業員との労働問題が発生して、労働審判や裁判になると、これらの準備にかかる会社の負担も大きいです。また、この労働問題が他の従業員に波及したり、士気低下を防ぐためにも、会社としても費用対効果のみを考えて安易に妥協することができないこともあります。
そのため、紛争が発生してから、裁判が終わるまでに2年~3年ほどかかる事案もあるのです。
このように、労働問題が発生すると、会社にとっても大きな負担になってきます。
2.労働問題を未然に防ぐために
2-1.就業規則等の整備や見直し
まずは、就業規則等の整備や見直しを行うことが重要です。
企業の中には、そもそも就業規則がなかったり、昔もらったひな形をそのまま使っているという会社もあります。
しかし、就業規則がなければ、従業員に対する懲戒処分さえ行えないという事態にもなりかねません。
また、労働関係法令は、時代の変化に伴い改正が繰り返されている上、新しい判例も出てきており、これらに合うように就業規則の規定を見直していく必要があります。
2-2.従業員に誓約書の提出を求める
もし、退職後の従業員による、自社の顧客や従業員の引き抜き、秘密の漏洩を懸念されるのであれば、従業員に誓約書を提出してもらうことを検討すべきです。これは、退職後の従業員に対して、競業行為の一部制限を設けたい場合にも同じです。
これらの場合には、従業員の入社時及び退職時に、誓約書を作成してもらいましょう。
この誓約書については、裁判例で無効とされるケースも多いので、無効にされないように弁護士と協議しながら慎重に作成することをお勧めいたします。
3.弁護士と社労士の違い
「労働問題を弁護士と社労士のどちらに相談すれば良いですか?」と聞かれることがありますので、簡単に説明いたします。
社労士は、社会保険の手続きや給与計算、年金相談、労務管理についての専門家です。
社労士も労働関係についての専門化ですが、弁護士との大きな違いは、社労士では労働審判や裁判という紛争には対応できない点にあります。逆に言えば、弁護士は、労働審判や裁判に対応しているからこそ、これらになった時に不利にならないようにアドバイスを行うことが可能です。
そのため、少なくとも、将来の紛争予防も踏まえてアドバイスが欲しい時は、弁護士に相談して頂くのが良いです。
実際に、顧問弁護士と顧問社労士の双方を抱えている企業も多く、弁護士の立場からしても、社労士の先生方と共に、企業発展に貢献しています。
4.最後に
京都の益川総合法律事務所では、企業側の労働法務への支援体制を整えております。
労働問題を未然に防ぎたいとお考えの企業経営者の方やご担当者の方は、お気軽にご相談ください。
従業員の引き抜きに対する防止策
本ページでは、従業員の引き抜きに対する防止策について、紹介します。
特に、自社の元役員や元従業員、在職中の役員や従業員が転職先に、自社の従業員を引き抜いてくることへの防止策になります。
これまでの記事でも、従業員の引き抜きについて、解説してきましたので、是非参考になさってください。
■これまでの記事
②「従業員の引き抜きを違法と評価した裁判例について、企業側の弁護士が解説」
③「派遣スタッフの引き抜きを違法と評価した裁判例について、会社側の弁護士が解説」
1.誓約書の提出を求める
まずは、従業員の入社時及び退職時に、自社の従業員の引き抜きを行わないとの誓約書の提出を求めることが考えられます。
但し、誓約書もその内容次第では、裁判所から無効とされてしまいますので、誓約書の作成の際には、弁護士に相談の上、作成されてください。
2.就業規則に記載する
次に、就業規則にて、従業員の引き抜きを制限することが考えられます。
退職後も従業員に制限を課す就業規則の効力については、退職後の従業員の自由を不当に制限しない範囲で認められています。
そのため、就業規則の規定の仕方については、気を使う必要がありますが、就業規則にて引き抜きを規制する方法も考えられます。
なお、誓約書と就業規則については、どちらか一方のみではなく、双方で規律しておくことをお勧めしております。
なぜなら、誓約書だけの場合、提出を拒否されてしまったら、引き抜き防止策が打てなくなりますし、就業規則だけの場合には、そもそも従業員が就業規則の内容を理解しているかが分からないためです。就業規則については、作成手続きに不備があるとして、裁判所から効力を否定されている例も見受けられます。
3.引き抜きの計画が判明した場合
自社の元役員や元従業員による引き抜きの計画が判明した場合には、その者(企業)に対して、通知書を送付することが考えられます。この通知書は、弁護士に依頼の上、内容証明郵便の形で送付することが効果的です。
また、実際に、引き抜き行為がされてしまった場合には、相手方に対して、損害賠償請求をしていくことが考えられます。この辺りは、弁護士に相談の上、損害賠償請求が認められるかの見通しも含めて、対応するのが良いです。
4.顧問弁護士の活用も
従業員の引き抜きに対する防止策を打ちたい企業様は、顧問弁護士の活用もご検討ください。顧問弁護士が入れば、当該企業様に合わせて、適切に従業員の引き抜きに対する防止策を講じることができます。
また、当事務所の経験上、顧問弁護士がいた場合には、従業員を引き抜かれることが少なくなります。
これは、上記のような防止策に加えて、引き抜く側も、実際に引き抜き行為をした場合には、その顧問弁護士が活動してくることが分かるためです。
5.最後に
今回は、従業員の引き抜きに対する防止策について、企業側で労働問題に注力する弁護士が解説しました。
以前の記事でも解説しましたが、引き抜きに対する損害賠償請求が認められたとしても、その金額は、多くの経営者の方にとっては、割に合わないものになっています。
そのため、可能な限り、従業員の引き抜きを事前に防止する措置を講じた方がよいです。
当事務所は、1983年の創業以来、中小企業の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。
従業員の引き抜きについて、お困りの事業者の方がおられましたら、お気軽に当事務所までご相談ください。
裁判所が認める従業員が引き抜かれた際の損害額について
企業運営をしていると、自社の従業員が引き抜かれることもあります。
これまでの記事では、従業員の引き抜きが違法と評価される場合などについて、解説してきました。
■これまでの記事
②「従業員の引き抜きを違法と評価した裁判例について、企業側の弁護士が解説」
③「派遣スタッフの引き抜きを違法と評価した裁判例について、会社側の弁護士が解説」
今回は、従業員の引き抜きが違法と評価された場合に、裁判所が、どのくらいの損害額を認めているのかについて、企業側で労働問題に注力している弁護士が解説します。経営者の方や、担当者の方は、是非参考になさってください。
1.売上減少分全額が認められるわけではない
従業員を違法に引き抜かれた場合、売上減少分全額を、損害として認めて欲しいと考えるのが通常でしょう。
しかし、裁判例上、売上減少分全額を、損害として認めてくれるわけではありません。
この理由について、裁判例は、下記の理由を挙げています。
①従業員には、退職・転職の自由が認められており、従業員の自由意思による退職・転職によって、企業に発生する損害については、企業が甘受し、その従業員に賠償を請求することができないのが原則であること
②企業としては、適宜の方法で従業員を補充し、その損失を最小限にすべく努めるのが通例であるが、元の状態に業績が回復するまでの期間が長く、またそれまでの経費が多かろうと、企業としてはこれを甘受しなければならないこと
2.裁判例上認められている損害額
裁判例上、従業員の引き抜きが違法と評価された場合には、下記の①から②を差し引いた金額を、損害として認めることが多いです。
■計算式
①引き抜かれた従業員が上げていた粗利益の1か月から3か月分
※粗利益とは、売上高から売上原価(製造原価)を差し引くものです。
②引き抜かれた従業員の給与+各種保険料(労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金等)のうち原告が負担している部分
・具体例
引き抜かれた従業員が、月150万円の粗利益を上げており、当該従業員の給与と、各種保険料の会社負担分の合計額が月40万円だったとします。
この場合に、裁判所が、3か月分の粗利益を基準に損害額を認定した場合には、330万円の損害賠償請求が認められることになります。
①粗利益の3か月分→月150万円×3か月=450万円
②引き抜かれた従業員の経費→月40万円×3か月=120万円
①450万円-②120万円=330万円
3.7200万円の損害賠償請求を認めた裁判例も
裁判例上、従業員の引き抜きも問題になった事例で、7200万円もの損害賠償請求を認容したケースもあります。
この事例は、クリニックの院長であり、医療法人の理事であった者が、クリニックに極めて近い場所に診療施設を開設して、従業員の引き抜きを行うとともに、患者に対しても転院を働きかけた事例です。
裁判所は、クリニックの経営を左右するほど重大な損害を発生させたとして、当該院長に対して、7200万円もの損害賠償請求を認めました。
この事例では、クリニックが行っていたのが、人工透析であり、人工透析を受ける者という患者の性質上、ある診療施設に通院可能な地域の患者数はおのずから限られているのであるから、クリニックに極めて近い場所に診療施設を開設し、クリニックの患者に転院を働きかければ、クリニックの患者が減少し、その経営に影響を与えることは明らかであったという点が重視されています。
4.最後に
今回は、従業員の引き抜きが違法と評価された場合に、裁判所が、どのくらいの損害額を認めているのかについて、企業側の弁護士が解説しました。
7200万円のケースはさておき、多くの経営者の方にとっては、裁判所が認める損害額は割に合わないものだと思います。
そのため、可能な限り、従業員の引き抜きを事前に防止する措置を講じた方がよいです。
この辺りについては、次回の記事で解説いたします。
当事務所は、1983年の創業以来、中小企業の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。
従業員の引き抜きについて、お困りの事業者の方がおられましたら、お気軽に当事務所までご相談頂ければと思います。
派遣スタッフの引き抜きを違法と評価した裁判例について、会社側の弁護士が解説
企業運営をしていると、自社の元幹部社員が自社の従業員を引き抜いてきたり、同業他社が自社の従業員を引き抜いてくることもあります。
これまでの記事では、①従業員の引き抜きが違法と評価されるか否かの判断基準や、②従業員の引き抜きを違法と評価した実際の裁判例について、解説してきました。
■これまでの記事
②「従業員の引き抜きを違法と評価した裁判例について、企業側の弁護士が解説」
今回は、在職中の幹部社員による、派遣スタッフの引き抜き行為を違法と評価した裁判例について、企業側で労働問題に注力している弁護士が解説します。経営者の方や、担当者の方は、是非参考になさってください。
1.派遣スタッフの引き抜きが違法か否かの判断基準
まず、どのような場合に、派遣スタッフの引き抜きが違法と評価されるのかについて、簡単に解説します。
引き抜き行為をしてきた相手方が、①自社に在職中の取締役や従業員、②自社を退職した元取締役や元従業員、③同業他社のいずれかで、判断基準は少し変わることになりますが、概ね、下記の場合には、派遣スタッフの引き抜きが違法と評価されることになります。
■判断基準
単なる勧誘の範囲を超えて、社会的相当性を逸脱した方法で引き抜き行為が行われた場合には、引き抜き行為が違法となる。
引き抜き行為が違法と評価された場合には、実際に引き抜き行為をしてきた相手方に対する損害賠償請求が認められることになります。
引き抜きが違法となるか否かの判断基準については、「従業員の引き抜きが違法と評価される場合とは?」の記事で、詳しく解説しています。気になる方は、参考になさってください。
2.派遣スタッフの引き抜きを違法と評価した裁判例
フレックスジャパン・アドバンテック事件(大阪地裁平成14年9月11日判決)では、会社に在職中の幹部社員が、転職先の同業他社に、自身が担当する派遣スタッフを大量に引き抜いた行為の違法性が、問題となりました。
この裁判例では、同業他社への派遣スタッフの大量の引き抜きが、計画的かつ極めて背信的であるとして、①当該引き抜き行為をした幹部社員、及び、②転職先の同業他社への損害賠償請求を認めました。
(1)引き抜き行為をした幹部社員の責任
この裁判例では、幹部社員による引き抜き行為が、「計画的かつ極めて背信的」なものであり、「単なる転職の勧誘にとどまらず、社会的相当性を著しく逸脱した違法な引き抜き行為である」と判断し、幹部社員の損害賠償責任を認めました。
裁判所は、違法性の判断に際して、以下の事実を重視しました。
■裁判所が重視した事実
①引き抜き行為をした者が、会社営業所の責任者という地位にあり、営業活動において中心的な役割を果たすいわゆる幹部社員であったこと
②引き抜き行為をした者も、突然自身が会社を退職すれば、派遣スタッフが一斉に会社を退職することとなり、その結果、会社の業務運営に支障が生じることを認識していたこと
③引き抜き行為をした者が、同業他社への転職が内定していながら、これを会社に隠して引き抜き行為をしていたこと
④引き抜き行為をした者が、突然会社に対して退職届を提出した上、退職に当たって何ら引継ぎ事務も行わなかったこと
⑤引き抜き行為をした者が、派遣スタッフに対して、会社の営業所が閉鎖されるなどと虚偽の情報を伝えて、引き抜き行為をしたこと
⑥引き抜きに際して、転職先への入社祝い金として、派遣スタッフ1人当たり3万円を支給していること
⑦引き抜いた派遣スタッフに対して、会社在職中と同じ派遣先企業への派遣を約束するなどして、会社が受ける影響について配慮していないこと
この裁判例では、上記①から⑦の引き抜き行為の態様が、計画的かつ極めて背信的であったと評価して、幹部社員の損害賠償責任を認めています。
(2)引き抜き行為に加担した同業他社の責任
この裁判例は、引き抜き行為に加担した新雇用主の行為についても、「単なる転職の勧誘の範囲を越え、社会的相当性を著しく逸脱した引き抜き行為を行ったものというべきである」と判断し、新雇用主の損害賠償責任を認めました。
裁判所は、同業他社による下記のような行為を重視して、違法である旨の判断をしました。
■裁判所が重視した事実
①引き抜き行為をした者に対して、自社への入社以前に自社の名刺を作成して渡していること
②会社を退職した派遣スタッフが、同業他社に入社した後は、直ちにこれらの者を元の会社在職時と同様の派遣先企業に派遣していること
③同業他社において、派遣スタッフが自社に入社することを予想して、会社の派遣先であった企業と、派遣に関する契約を締結していたこと
④同業他社において、会社が顧客である派遣先企業と人材を失うことを当然に認識していたこと
⑤派遣スタッフと引き抜き行為をした者との間で、会合が開かれた際に、同業他社の支配下にある会社の代表者を同席させ、その席上で、同業他社への入社祝い金名目の3万円の支給の話があったこと
⑥実際に、引き抜き行為をした者が、派遣スタッフに3万円を支給しており、かかる金員の供与についても、同業他社が承知していたといえること
⑦引き抜き行為をした者が、派遣スタッフに対して転職を勧誘する際に、賃金のベースアップに言及しており、このような発言は同業他社の承認ないし関与がなければできないこと
⑧同業他社は、幹部社員である引き抜き行為をした者が、会社を退職して自社に入社すれば、会社の派遣スタッフもこれに伴って、自社に入社するであろうとの期待を抱いていたこと
⑨同業他社は、引き抜き行為をした者に続く、派遣スタッフではない他の従業員3名の採用については、人件費の点で厳しいと認識していたが、結局、人材派遣業の営業拡大のためこれらの者を雇用したこと。
この裁判例では、上記①から⑨の事情を、総合的に判断すると、同業他社は、引き抜き行為をした者と共謀して、社会的相当性を著しく逸脱した引き抜き行為を行ったものというべきである旨判断されました。
3.最後に
今回は、派遣スタッフの引き抜きを違法と評価した裁判例について、企業側の弁護士が解説しました。
当事務所は、1983年の創業以来、中小企業の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。
従業員や派遣スタッフの引き抜きについて、お困りの事業者の方がおられましたら、お気軽に当事務所までご相談頂ければと思います。
従業員の引き抜きを違法と評価した裁判例について、企業側の弁護士が解説
企業運営をしていると、元役員が自社の従業員を引き抜いてきたり、競合他社が自社の従業員を引き抜いてくることもあります。
前回の記事では、従業員の引き抜きが違法と評価されるか否かの判断基準について、詳細に解説しました(「従業員の引き抜きが違法と評価される場合とは?」)。
今回は、実際に従業員の引き抜きが違法と評価された裁判例について、会社側で労働問題に注力している弁護士が解説します。経営者の方や、担当者の方は、是非参考になさってください。
1.従業員の引き抜きが違法か否かの判断基準
まず、どのような場合に、従業員の引き抜きが違法と評価されるのかについて、簡単に解説します。
引き抜き行為をしてきた相手方が、①在職中の取締役や従業員、②自社の元取締役や元従業員、③競合他社のいずれかで、判断基準は少し変わることになりますが、概ね、下記の場合には、従業員の引き抜きが違法と評価されることになります。
■判断基準
単なる勧誘の範囲を超えて、社会的相当性を逸脱した方法で引き抜き行為が行われた場合には、引き抜き行為が違法となる。
引き抜き行為が違法と評価された場合には、実際に引き抜き行為をしてきた相手方に対する損害賠償請求が認められることになります。
より詳しい内容については、「従業員の引き抜きが違法と評価される場合とは?」の記事にて解説しています。気になる方は、参考になさってください。
2.従業員の引き抜きを違法と評価した裁判例
ラクソン事件(東京地裁平成3年2月25日判決)では、会社に在職中の幹部社員が自身の部下の大多数を、転職先の競合他社に引き抜いた行為の違法性が、問題となりました。
この裁判例では、競合他社への大量の引き抜きが計画的、背信的であるとして、①当該引き抜き行為をした幹部社員、及び、②転職先の競合他社への損害賠償請求を認めました。
この裁判例は、少し古い裁判例にはなりますが、今なお重要な価値がある裁判例ですので、以下では、詳細に、この裁判例を解説していきます。
(1)引き抜き行為をした幹部社員の責任
この裁判例では、幹部社員による引き抜き行為が、「計画的かつ極めて背信的」なものであり、「もはや適法な転職の勧誘に留まらず、社会的相当性を逸脱した違法な引き抜き行為であり、不法行為に該当するものと評価せざるを得ない」と判断し、幹部社員の損害賠償責任を認めました。
裁判所が、違法性の判断に際して、以下の事実を重視しました。
■裁判所が重視した事実
①引き抜き行為をした者が、会社の営業において中心的な役割を果していた幹部社員で、しかも引き抜き行為の直前まで会社の取締役でもあったこと
②引き抜き行為をした者が、部下とともに会社の社運をかけたプロジェクトを任されていたこと
③引き抜き行為をした者も、自身とともに部下が一斉退職すれば、会社の運営に重大な支障が生じることを熟知していたこと
④引き抜き行為の方法も、まず役職者の部下たちに対して移籍を説得したうえ、その説得が成功した後に、会社に知られないように、内密にその下の部下であるセールスマンらの移籍を計画・準備したこと
⑤セールスマンらが移籍を決意する以前から、移籍した後の営業場所を確保したばかりか、あらかじめ営業場所に備品を運搬するなどして、移籍後直ちに営業を行うことができるように準備していたこと
⑥慰安旅行を装って、事情を知らないセールスマンらをまとめて連れ出し、ホテル内の一室で移籍の説得を行ったこと
⑦その翌日には、打合せどおりホテルに来ていた、転職先の会社役員に、移籍先の会社の説明をしてもらったこと
⑧役員に会社説明をしてもらった、その翌日から、早速競合他社の営業所で営業を始め、その後にセールスマンらに被害会社への退職届けを郵送させたこと
この裁判例では、上記①から⑧の引き抜き行為の態様が、計画的かつ極めて背信的であったといわねばならないと評価して、幹部社員の損害賠償責任を認めています。
(2)引き抜き行為に加担した競合他社の責任
この裁判例は、引き抜き行為に加担した新雇用主の行為についても、「単なる転職の勧誘を越えて社会的相当性を逸脱した引抜行為であるといわざるを得ない」と判断し、競合他社の損害賠償責任を認めました。
裁判所は、競合他社の下記のような行為を重視して、違法である旨の判断をしました。
■裁判所が重視した事実
①事前に引き抜き行為をした幹部社員に接触し、被害会社における幹部社員やその部下の役割と、それらが抜けた場合の被害会社の受ける影響を十分認識していながら、幹部社員と集団的移籍のための方法を協議していたこと
②従業員の大量移籍が、あくまで被害会社に内密に行われることを前提にして、いわば不意打ち的な集団移籍の計画であったこと
③セールスマンらに移籍の勧誘がされる前に、被害会社の幹部社員とその部下たちが移籍することを前提として、あらかじめ30坪の広さを有する事務所を被害会社の幹部社員に提供したこと
④慰安旅行先に出向いて、セールスマンらに対し自社の会社の説明をすることを、旅行の前から、被害会社の幹部社員と打合せていたこと
⑤慰安旅行が被害会社の代表者に発覚したとの報告を幹部社員から受けると、急遽、当初と異なるホテルを手配したり、バスをチャーターし、しかもこのホテル宿泊費及びバスチャーター料をすべて負担するなど、移籍の勧誘のための場所作りに積極的に関与したこと
⑥慰安旅行の2日目には、実際にホテルの会議室で、被害会社のセールスマンらに自社(新雇用主)の会社の説明会を開催したこと
⑦振興会の準会員として、セールスマンリクルートを自粛するという振興会の統一見解を遵守しなければならない立場にあったにもかかわらず、それに違反する、引抜行為を実行したこと
この裁判例では、上記①から⑦の事情を、総合判断すると、競合他社の行為は、単なる転職の勧誘を越えて社会的相当性を逸脱した引抜行為であるといわざるを得ない旨判断されています。
3.最後に
今回は、従業員の引き抜きが違法と評価された裁判例について、企業側の弁護士が解説しました。
当事務所は、1983年の創業以来、中小企業の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。
従業員の引き抜きについて、お悩みの事業者の方がおられましたら、お気軽に当事務所までご相談頂ければと思います。
従業員の引き抜きが違法と評価される場合とは?
企業運営を行っていると、自社の元役員が自社の従業員を引き抜いてきたり、競合他社が自社の従業員を引き抜いてきたりすることもあります。
もし、自社の従業員が引き抜かれた場合、引き抜き相手に対する損害賠償請求は認められるのでしょうか。引き抜き行為が違法と評価される場合には、引き抜き相手に対する損害賠償請求が認められることになります。
そこで、今回は、従業員の引き抜きが違法と評価される場合について、企業側で労働問題に注力している弁護士が解説いたします。自社の従業員が引き抜かれた経営者の方や、企業担当者の方は、是非参考にしてみてください。
1.引き抜きが問題となる3つのケース
自社の従業員が引き抜かれた場合、おおよそ、下記の3つのケースが考えられます。
(1)在職中の取締役や従業員が、自社の従業員を引き抜くケース
意外と多いのが、在職中の取締役や従業員が、自社の従業員を引き抜くケースです。
在職時に引き抜き行為をした取締役や従業員は、通常、その後に自社を辞めて、競合他社に転職するか、競合の会社を設立します。
この場合、引き抜き行為をした取締役や従業員への損害賠償請求とともに、競合他社への損害賠償請求も検討することになります。
(2)自社の元取締役や元従業員が、自社の従業員を引き抜くケース
既に、自社を辞めた取締役や従業員が、競合他社に転職したり、競合の会社を設立しており、自社の従業員を引き抜いてくるケースです。
実務上、このパターンが特に多い印象です。このケースの場合、引き抜き行為をしてきた元取締役や元従業員は、自社を辞める際に自社と揉めていることも多いです。
この場合には、引き抜き行為をした元取締役や元従業員への損害賠償請求とともに、競合他社への損害賠償請求も検討することになります。
(3)競合他社が、自社の従業員を引き抜くケース
最後は、競合他社が、自社の元従業員などを介在させずに、単独で引き抜いてくるケースです。
このケースの場合には、上の2つのケースほど、強引に引き抜いてくることは少ない印象です。
2.引き抜きが違法と評価される場合について
自社の従業員が引き抜かれた際に、会社が損害賠償請求を行うことを検討する相手方は、下記の3者になります。
①在職中に引き抜き行為をしてきた取締役や従業員
②退職後に引き抜き行為をしてきた自社の元取締役や元従業員
③引き抜き行為をしてきた(又は①や②に加担した)競合他社
引き抜きが違法と評価されるか否かの基準については、下記にて詳しく解説しますが、引き抜き行為が社会的相当性を逸脱したと認められる場合には、違法との評価を受けることになります。
(1)基本的な考え方
労働者には、職業選択の自由があり、労働者には転職の自由が認められています。それゆえ、労働者が新たな就職先と雇用契約を締結することも自由です。
そのため、このような自由を有する労働者を勧誘したり、情報提供などにより援助することも、原則として自由であるとされています。
裁判例においても、会社に在職中の社員が他の従業員に対して、自身の転職先の競合他社への引き抜き行為をした事例で、これが単なる転職の勧誘にどどまる場合には、違法ではないと判断しています。
■裁判所の判断(原則論)
従業員は、使用者に対し、雇用契約に付随する信義則上の義務として就業規則を遵守するなど雇用契約上の債務を誠実に履行し、使用者の正当な利益を不当に侵害してはならない義務を負い、従業員がこの義務に違反した結果、使用者に損害を与えた場合は、これを賠償すべき責任を負うというべきである。
そして、労働市場における転職の自由の点からすると、従業員が他の従業員に対して同業他社への転職のため引き抜き行為を行ったとしても、これが単なる転職の勧誘にどどまる場合には、違法であるということはできない。
仮にそのような転職の勧誘が、引き抜きの対象となっている従業員が在籍する企業の幹部職員によって行われたものであっても、企業の正当な利益を侵害しないようしかるべき配慮がされている限り、これをもって雇用契約の誠実義務に違反するものということはできない。
(2)引き抜きが違法と評価される場合
ア 在職中に取締役や従業員が引き抜き行為をした場合
しかし、当然ながら、引き抜き行為が、どのような場合にも適法となるわけではありません。
裁判例上も、会社に在職中の幹部社員が他の従業員に対して、自身の転職先の競合他社への引き抜き行為をした事例で、引き抜き行為が単なる勧誘の範囲を超え、著しく背信的な方法で行われ、社会的相当性を逸脱した場合には、引き抜き行為が違法になると判断されています。
■裁判所の判断(違法と評価される場合について)
企業の正当な利益を考慮することなく、企業に移籍計画を秘して、大量に従業員を引き抜くなど、引き抜き行為が単なる勧誘の範囲を超え、著しく背信的な方法で行われ、社会的相当性を逸脱した場合には、このような引き抜き行為を行った従業員は、雇用契約上の義務に違反したものとして、債務不履行責任ないし不法行為責任を免れないというべきである。
そして、当該引き抜き行為が社会的相当性を逸脱しているかどうかの判断においては、引き抜かれた従業員の当該会社における地位や引き抜かれた人数、従業員の引き抜きが会社に及ぼした影響、引き抜きの際の勧誘の方法・態様等の諸般の事情を考慮すべきである。
■弁護士の補足解説
自社に所属する者が他の従業員を引き抜いたことが問題になった際には、裁判所は、引き抜き行為が社会的相当性を逸脱した場合には、違法になると判断します。
そして、多くの裁判例の傾向を見てみると、その判断にあたっては、概ね、下記の4つの事情を中心に、諸般の事情を総合考慮して判断されています。
①引き抜き行為をした従業員の当該会社における地位
引き抜き行為をした従業員が、会社の幹部社員であったり、会社の中で中心的役割を果たすものであった場合には、違法であるとの方向に傾くことになります。
②引き抜かれた従業員の当該会社における地位や引き抜かれた人数
引き抜かれた人数が多く、しかもその会社で重要な地位を担っている者を引き抜いた場合には、違法であるとの方向に傾くことになります。
③従業員の引き抜きが会社に及ぼした影響
引き抜きにより、会社の業務運営に重大な支障を及ぼす場合には、違法であるとの方向に傾くことになります。
④引き抜きの際の勧誘の方法・態様
下記の場合には、違法であるとの方向に傾くことになります。
・競合他社への就職が内定していながら、これを会社に隠して引き抜き行為をした
・引き抜き行為をした者や引き抜かれた者が、突然会社を退職した上、退職にあたって何らの引継ぎ事務を行っていない
・他の従業員に会社にとってマイナスな虚偽の情報を伝え、金銭供与をするなどして転職を勧誘した
・慰安旅行を装って、事情を知らない従業員をまとめて連れ出し、ホテル内の一室で移籍の説得を行った
イ 自社の元取締役や元従業員が引き抜き行為をしてきた場合
自社の元取締役や元従業員が引き抜き行為をしてきた場合、その引き抜き行為が社会的相当性を著しく欠くような方法・態様で行われた場合には、違法な行為と評価されます。
そして、その判断にあたっては、①引き抜かれた従業員の当該会社における地位や引き抜かれた人数、②従業員の引き抜きが会社に及ぼした影響、③引き抜きの際の勧誘の方法・態様などの事情を中心に、諸般の事情を総合考慮して判断されることになります。
判断基準については、概ね同じであるものの、在職中の取締役や従業員による、引き抜き行為のケースよりは、違法と評価されることが難しくなります。
■裁判所の判断
従業員が勤務先の会社を退職した後に当該会社の従業員に対して引き抜き行為を行うことは原則として違法性を有しないが、その引き抜き行為が社会的相当性を著しく欠くような方法・態様で行われた場合には、違法な行為と評価されるのであって、引き抜き行為を行った元従業員は、当該会社に対して不法行為責任を負うと解すべきである。
ウ 競合他社が引き抜き行為をしてきた場合
競合他社が引き抜き行為をしてきた場合、単なる転職の勧誘の範囲を超えて社会的相当性を逸脱した方法で従業員を引き抜いたといえる場合には、引き抜き行為が違法と評価されることになります。
裁判例で問題になるケースは、競合他社が単独で引き抜き行為をしてきた場合よりも、(1)や(2)の従業員の引き抜き行為に加担している場合が多いです。
■裁判所の判断
企業が同業他社の従業員に対して自社へ転職するよう勧誘するに当たって、単なる転職の勧誘の範囲を超えて社会的相当性を逸脱した方法で従業員を引き抜いた場合、当該企業は、同業他社の雇用契約上の債権を侵害したものとして、不法行為責任に基づき、引き抜き行為によって同業他社に生じた損害を賠償する義務があるというべきである。
3.最後に
今回は、従業員の引き抜きが違法と評価されるか否かの判断枠組みについて、解説しました。
次回は、実際に従業員の引き抜きが違法と判断されて、引き抜き相手に対する損害賠償請求が認められた裁判例について、詳細に解説していきたいと思います。
当事務所は、1983年の創業以来、中小企業の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。
従業員の引き抜きについて、お悩みの事業者の方がおられましたら、お気軽に当事務所までご相談頂ければと思います。
従業員から労働訴訟を起こされた時に会社が取るべき対応
近年、企業が(元)従業員から労働訴訟を起こされることも少なくありません。
そこで、今回は、企業が(元)従業員から労働訴訟を起こされた時に、会社が取るべき対応などについて、企業側で労働問題に注力している弁護士が解説いたします。労働訴訟を起こされた経営者の方や、企業担当者の方は、是非参考にしてみてください。
1.企業が従業員から訴えられる内容
企業が(元)従業員から訴えられる労働訴訟の内容としては、下記の4つが代表的なものになります。
(1)解雇無効
1つ目は、解雇が無効であると訴えられるケースです。
これは、労働者の地位に関わる訴えになります。
この場合、解雇無効の訴えとともに、従業員から会社に対する賃金請求も加えられていることがほとんどです。この賃金請求においては、解雇が無効になった場合に、解雇期間中の賃金をさかのぼって請求されることになります。解雇してから判決が出るまでに、数年単位でかかることもあり、このような場合には、数年分の賃金請求が飛んでくることになります。
この訴えを企業が起こされた場合には、①解雇に合理的な理由があること、②解雇という手段を選択することが相当であることを、企業側が積極的に主張していく必要があります。
(2)セクハラやパワハラなどを理由とする損害賠償請求
2つ目は、セクハラやパワハラを理由に、企業が損害賠償請求を受けるケースです。
このケースの場合には、セクハラやパワハラをしたとされる従業員や役員とともに、企業も損害賠償を受けるケースになります。
会社内でセクハラやパワハラがあった場合、企業側の責任が認められてしまうことも多いです。
この訴えを企業が起こされた場合には、企業側は、主に下記のような反論をしていくことになります。
①そもそもセクハラやパワハラが存在しない
②セクハラやパワハラについて企業が適切に防止措置を取っていた
③セクハラやパワハラが発覚した後に企業が適切に対応している
(3)労働災害を理由する損害賠償請求
3つ目は、労働災害を理由に、企業が損害賠償請求を受けるケースです。
これは、労働が原因で従業員が死亡したり、障害を負った場合などに、企業が損害賠償を受けるものです。
代表的なものとしては、過労死や、長時間労働が原因で従業員が大きな障害を負う事例などが挙げられます。
この訴えを企業が起こされた場合には、企業側は、主に下記のような反論をしていくことになります。
①その従業員が労働者ではない(労働者性)
②従業員の死亡又は障害は、業務が原因ではない(業務起因性)
この②の中で、過重労働や長時間労働といった従業員側の主張には理由がないことを主張してくことになります。
③従業員側の主張する損害額が誤っていること(損害論)
もし、従業員側が障害を負って、後遺障害等級が付いている事案であれば、後遺障害等級についての反論も検討することになります。
(4)未払残業代請求
4つ目は、未払残業代請求などの、未払賃金を請求されるケースです。
未払残業代や未払給料については、元々2年で時効消滅していましたが、2020年4月1日から時効期間が3年に伸びました。そして、将来的には、時効が5年になる見込みです。
この消滅時効期間が伸びたことにより、未払残業代などの請求金額も大きくなってきています。
この訴えを会社が起こされた場合には、企業側は、主に下記のような反論をしていくことになります。
①従業員側の主張する労働時間が誤っている
②管理監督者に該当するため、未払残業代を支払う必要がない
③時効により消滅している
2.訴訟を起こされた際に企業が取るべき対応
(1)訴状と証拠の内容確認
企業が(元)従業員から訴えられた場合、裁判所を通じて、従業員側の訴状や証拠などが送られてくることになります。
この訴状の「請求の原因」と記載されている部分の中には、一体なぜ、当該従業員が企業を訴えているのかの理由が示されています。そして、相手方の主張を裏付ける証拠も添付されています。
まず、企業においては、相手方の主張の適否について、検討する必要があります。
(2)反論を検討する
相手方の主張を理解した後は、自社で反論を検討することになります。
労働訴訟において、通常、従業員側の訴状の内容が全て正しいということはありません。
企業において、訴状の誤っている部分についての反論を検討するとともに、企業側の主張を裏付ける証拠を収集していくことになります。
(3)企業側の労働訴訟に長けている弁護士を探す
企業が労働訴訟を起こされた場合、ほとんどのケースで、企業は弁護士に依頼をします。これは、自社で訴訟に対応することが、現実的にみて難しいためです。
そのため、当該訴訟を依頼するために、企業側の労働訴訟に長けている弁護士を探す必要があります。
もし、自社に顧問弁護士がいるのであれば、まずはその弁護士に相談することになるでしょう。
意外と、自社の顧問弁護士が労働訴訟に対応していないケースもあるようで、当事務所にも顧問弁護士がいるのに労働訴訟についてご相談やご依頼を頂くケースもあります。
裁判所から訴状が届いたタイミングですぐに弁護士にご相談頂ければと思います。
(4)答弁書を作成する
訴えられた場合、企業は答弁書を作成する必要があります。
この書面において、従業員側の主張が誤っている点や、企業側が認識している事実関係及びそれを裏付ける証拠を示していくことになります。
裁判官は早い段階で訴訟の見通しを立てることも多いため、初回の答弁書から、自社の主張を全て出し切るつもりで対応することが重要です。
3.顧問弁護士のすすめ
企業が訴えられた場合にも、顧問弁護士がいれば、すぐに相談をして対策を打てるため、安心です。
企業が訴えられると、必要以上に不安になる経営者の方もいらっしゃいます。これまで、訴えられたという事実を重くとらえて、1人で悩み、精神的に追い込まれた経営者の方も見てきました。
しかし、経営者の方の役割は、前を向いて会社を前進させることであり、訴訟を起こされたからといって必要以上に不安になられる必要はありません。
このような企業の防衛については、顧問弁護士に任せて頂くのがよいと考えています。
これまでの顧問先様からのご依頼案件の中には、対応を間違えると顧問先様が危機的状況に陥るような案件も多数ありましたが、当事務所では顧問先様にご満足頂く形で無事に案件を解決してきました。安心して、当事務所に顧問弁護士をお任せ頂ければと思います。
4.最後に
今回は、従業員から労働訴訟を起こされた時に企業が取るべき対応について、解説いたしました。
当事務所は、1983年の創業以来、中小企業の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。
当然、労働訴訟についても多数の対応経験を有しており、労働訴訟に関する企業側の対応方法を熟知していると自負しております。
従業員から労働訴訟を起こされて、お悩みの事業者の方がおられましたら、お気軽に当事務所までご相談頂ければと思います。
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