解雇の撤回や取消しとは?企業側の弁護士が解説

会社が従業員を解雇した後、従業員から「不当解雇」であると主張された場合、会社が「解雇の撤回」をすることがあります。

これは、解雇の撤回を行う方が、会社にとってメリットが大きいと判断するためです。

そこで、今回は、解雇の撤回や取消しについて、企業側で紛争案件に注力する弁護士が解説いたします。

1.解雇の撤回(取消し)とは

解雇の撤回(取消し)とは、企業が一度行った解雇を撤回して、その従業員に復職を求めることを言います。

この解雇の撤回は、主として、従業員から不当解雇である旨の主張を受けた際に行うものです。

2.なぜ解雇の撤回を行うのか

解雇の有効性が争われている事案で、弁護士が企業の代理人に就任した場合、解雇の撤回を行うこともあります。

これは、その企業にとって、解雇を撤回した方が、メリットが大きいためです。

以下では、なぜ解雇の撤回を行うのかについて、解説します。

2―1 バックペイを回避するため

解雇の撤回を行う一番大きな理由は、いわゆるバックペイを回避するためです。

バックペイとは、解雇が無効と判断された場合に、会社が解雇日まで遡って支払う必要のある賃金をいいます。

会社が解雇について従業員と徹底的に争う場合、「示談交渉→労働審判→労働訴訟」と移行するケースが多いです。そして、労働訴訟において判決が出されるまでに、すでに解雇をしてから2~3年経過しているケースもあります。

仮に、このようなケースで企業が労働訴訟で敗訴した場合、企業は、2~3年分の賃金を遡って支払わなければなりません。

また、解雇事案においては、類型的に企業側に不利な判断をされやすい傾向にあります。

このようなことを踏まえて、バックペイを回避するために、会社が解雇撤回を行うことになります。

2―2 従業員側が復職を拒否することもあるため

2つ目の理由は、従業員側が復職を拒否することもあるためです。

従業員側が不当解雇(解雇無効)を主張する場合、法的にはその従業員は復職を求めていることになります。

しかし、実際上、復職は望まないけれども、バックペイを取得するために、形式上、従業員側が不当解雇を主張していることもあります。

このような場合に、解雇撤回を行うと、従業員側が復職を拒否して、自主的に退職することもあります。

2―3 慰謝料請求を否定する一事情になるため

3つ目の理由が、従業員からの慰謝料請求を否定する一事情になるためです。

従業員側が不当解雇を主張している場合、その従業員は会社に対して、不当解雇を理由とする慰謝料請求も行うことが多いです。

このような場合、解雇撤回を行うことは、慰謝料請求を否定する方向の一事情になりますし、場合によっては、従業員側からの慰謝料請求自体も取りやめになることもあります。

3.解雇撤回の方法

3―1 解雇を撤回する旨の書面の送付

会社から当該従業員に対して、解雇を撤回する旨の書面を送付します

その内容としては、①解雇を撤回する旨、②復職を求める日時の指定、③復職後の業務内容や賃金などの労働条件などを記載します

裁判例の傾向からして、②の復職を求める日については、相手方が当該書面を受領してから1週間程度は空けておいた方が無難です。

また、③の復職後の労働条件については、基本的には、解雇前と同様の条件になるでしょう。

この書面については、後に送付の有無や内容が争いにならないように、内容証明郵便で送付するようにして下さい。

■解雇の撤回には、相手方の同意が必要

解雇の撤回を行うためには、当該従業員の同意が必要になります。

これは、民法540条2項が、解除の意思表示は、撤回することができないと規定しているためです。

但し、従業員側から不当解雇(解雇無効)が主張されている事案では、従業員側も解雇の撤回を求めているため、黙示的に解雇の撤回に同意していると判断できるケースがほとんどです。

そのため、実際上は、この点が、問題になることはあまり多くありません。

3―2 社会保険の処理

企業が従業員を解雇した場合、その時点で、社会保険について資格喪失の手続きを行っているはずです。

そのため、解雇を撤回する場合には、資格喪失の訂正(取消)を行う必要があります。

3―3 賃金について

解雇の撤回をした場合、解雇日から撤回日までの賃金を処理する必要があります。

解雇を撤回する以上、基本的には、解雇日から撤回日までの賃金について、企業が負担するとの処理をせざるを得ないでしょう。

4.従業員が復職を拒否した場合

もし、解雇を撤回して、従業員に復職を求めたにもかかわらず、その従業員が復職を拒否した場合には、どのような方法を取ればよいでしょうか。

4ー1 業務命令の発令

まずは、当該従業員に対して、会社に出社するように業務命令を発令することになります。この業務命令についても、書面で行い、内容証明郵便の形で送付するようにしてください。

4ー2 再度の解雇の検討

上記業務命令を発令しても、従業員が出社しなかった場合、再度の解雇を検討することになります

一般的には、2週間以上、無断欠勤が続いた場合には、解雇を検討することになりますが、再度の解雇の場合には、従前の経緯もあるため、1か月程度は様子を見た方が無難だと考えています。

4―3 解雇撤回後の賃金

解雇を撤回したものの、当該従業員が出社を拒否している場合には、原則として、解雇撤回後の従業員の賃金は発生しないことになります。

厳密には、この辺りも含めて、従業員との間で合意ができないかを模索することになります。

5.最後に

今回は、解雇の撤回や取消しについて、企業側で労働問題や紛争案件に注力する弁護士が解説しました。

京都の益川総合法律事務所では、1983年の創業以来、中小企業の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。

従業員から不当解雇と主張されて、お困りの企業経営者の方やご担当者の方は、お気軽にご相談ください。

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