派遣スタッフの引き抜きを違法と評価した裁判例について、会社側の弁護士が解説

企業運営をしていると、自社の元幹部社員が自社の従業員を引き抜いてきたり、同業他社が自社の従業員を引き抜いてくることもあります。

これまでの記事では、①従業員の引き抜きが違法と評価されるか否かの判断基準や、②従業員の引き抜きを違法と評価した実際の裁判例について、解説してきました。

■これまでの記事

従業員の引き抜きが違法と評価される場合とは?

従業員の引き抜きを違法と評価した裁判例について、企業側の弁護士が解説

今回は、在職中の幹部社員による、派遣スタッフの引き抜き行為を違法と評価した裁判例について、企業側で労働問題に注力している弁護士が解説します。経営者の方や、担当者の方は、是非参考になさってください。

1.派遣スタッフの引き抜きが違法か否かの判断基準

まず、どのような場合に、派遣スタッフの引き抜きが違法と評価されるのかについて、簡単に解説します。

引き抜き行為をしてきた相手方が、①自社に在職中の取締役や従業員、②自社を退職した元取締役や元従業員、③同業他社のいずれかで、判断基準は少し変わることになりますが、概ね、下記の場合には、派遣スタッフの引き抜きが違法と評価されることになります。

■判断基準

単なる勧誘の範囲を超えて、社会的相当性を逸脱した方法で引き抜き行為が行われた場合には、引き抜き行為が違法となる

引き抜き行為が違法と評価された場合には、実際に引き抜き行為をしてきた相手方に対する損害賠償請求が認められることになります。

引き抜きが違法となるか否かの判断基準については、「従業員の引き抜きが違法と評価される場合とは?」の記事で、詳しく解説しています。気になる方は、参考になさってください。

2.派遣スタッフの引き抜きを違法と評価した裁判例

フレックスジャパン・アドバンテック事件(大阪地裁平成14年9月11日判決)では、会社に在職中の幹部社員が、転職先の同業他社に、自身が担当する派遣スタッフを大量に引き抜いた行為の違法性が、問題となりました

この裁判例では、同業他社への派遣スタッフの大量の引き抜きが、計画的かつ極めて背信的であるとして、①当該引き抜き行為をした幹部社員、及び、②転職先の同業他社への損害賠償請求を認めました。

(1)引き抜き行為をした幹部社員の責任

この裁判例では、幹部社員による引き抜き行為が、「計画的かつ極めて背信的」なものであり、「単なる転職の勧誘にとどまらず、社会的相当性を著しく逸脱した違法な引き抜き行為である」と判断し、幹部社員の損害賠償責任を認めました。

裁判所は、違法性の判断に際して、以下の事実を重視しました。

■裁判所が重視した事実

引き抜き行為をした者が、会社営業所の責任者という地位にあり、営業活動において中心的な役割を果たすいわゆる幹部社員であったこと

引き抜き行為をした者も、突然自身が会社を退職すれば、派遣スタッフが一斉に会社を退職することとなり、その結果、会社の業務運営に支障が生じることを認識していたこと

引き抜き行為をした者が、同業他社への転職が内定していながら、これを会社に隠して引き抜き行為をしていたこと

引き抜き行為をした者が、突然会社に対して退職届を提出した上、退職に当たって何ら引継ぎ事務も行わなかったこと

引き抜き行為をした者が、派遣スタッフに対して、会社の営業所が閉鎖されるなどと虚偽の情報を伝えて、引き抜き行為をしたこと

引き抜きに際して、転職先への入社祝い金として、派遣スタッフ1人当たり3万円を支給していること

引き抜いた派遣スタッフに対して、会社在職中と同じ派遣先企業への派遣を約束するなどして、会社が受ける影響について配慮していないこと

この裁判例では、上記①から⑦の引き抜き行為の態様が、計画的かつ極めて背信的であったと評価して、幹部社員の損害賠償責任を認めています。

(2)引き抜き行為に加担した同業他社の責任

この裁判例は、引き抜き行為に加担した新雇用主の行為についても、「単なる転職の勧誘の範囲を越え、社会的相当性を著しく逸脱した引き抜き行為を行ったものというべきである」と判断し、新雇用主の損害賠償責任を認めました。

裁判所は、同業他社による下記のような行為を重視して、違法である旨の判断をしました。

■裁判所が重視した事実

引き抜き行為をした者に対して、自社への入社以前に自社の名刺を作成して渡していること

会社を退職した派遣スタッフが、同業他社に入社した後は、直ちにこれらの者を元の会社在職時と同様の派遣先企業に派遣していること

同業他社において、派遣スタッフが自社に入社することを予想して、会社の派遣先であった企業と、派遣に関する契約を締結していたこと

同業他社において、会社が顧客である派遣先企業と人材を失うことを当然に認識していたこと

派遣スタッフと引き抜き行為をした者との間で、会合が開かれた際に、同業他社の支配下にある会社の代表者を同席させ、その席上で、同業他社への入社祝い金名目の3万円の支給の話があったこと

実際に、引き抜き行為をした者が、派遣スタッフに3万円を支給しており、かかる金員の供与についても、同業他社が承知していたといえること

引き抜き行為をした者が、派遣スタッフに対して転職を勧誘する際に、賃金のベースアップに言及しており、このような発言は同業他社の承認ないし関与がなければできないこと

同業他社は、幹部社員である引き抜き行為をした者が、会社を退職して自社に入社すれば、会社の派遣スタッフもこれに伴って、自社に入社するであろうとの期待を抱いていたこと

同業他社は、引き抜き行為をした者に続く、派遣スタッフではない他の従業員3名の採用については、人件費の点で厳しいと認識していたが、結局、人材派遣業の営業拡大のためこれらの者を雇用したこと。

この裁判例では、上記①から⑨の事情を、総合的に判断すると、同業他社は、引き抜き行為をした者と共謀して、社会的相当性を著しく逸脱した引き抜き行為を行ったものというべきである旨判断されました。

3.最後に

今回は、派遣スタッフの引き抜きを違法と評価した裁判例について、企業側の弁護士が解説しました。

当事務所は、1983年の創業以来、中小企業の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。

従業員や派遣スタッフの引き抜きについて、お困りの事業者の方がおられましたら、お気軽に当事務所までご相談頂ければと思います。

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