従業員から労働審判を起こされた時に会社が取るべき対応

近年、企業と従業員との間で紛争が発生することも増えています。

そして、突然、企業が従業員や元従業員から、労働審判を起こされることもあります。

そこで、今回は、労働審判の流れや労働審判を起こされた際の企業側の対応方法などについて、企業側で労働問題に注力している弁護士が解説いたします。

労働審判を起こされた経営者の方や、企業担当者の方は、是非参考にしてください。

1.労働審判とは

労働審判とは、解雇や給料の不払いなど、個々の事業主と労働者との間の労働関係のトラブルを、迅速かつ実効的に解決するための手続になります。

労働審判の一番大きな特徴は、期日が3回以内で終わる迅速な手続きであるということです。

他にも、労働審判には、下記のような特徴があります。

①訴訟手続きとは異なり非公開の手続であること

②裁判官1名と労働審判員2名で組織される労働審判委員会が手続きを行うこと

(注)労働審判員は、雇用関係の実情や労使慣行等に関する詳しい知識と豊富な経験を持つ者の中から、最高裁判所により任命されることとなっています。

③裁判所の出す労働審判に対して不服のある当事者が異議申立てをすれば、労働審判は効力を失い、訴訟手続きに移行すること

2.労働審判の流れ

以下では、実際の労働審判の流れについて、解説していきます。

(1)従業員側からの申立て

通常、労働審判は、従業員や元従業員が、地方裁判所に対して、労働審判の申立書を提出することによって始まります。

以前は、元従業員が申し立てることが多く、現在も働いている従業員が申し立てることはほとんどなかった印象なのですが、最近では、現従業員から申し立てられることも少しずつ増えてきた印象です。

(2)裁判所から企業への期日指定や呼び出し

次に、裁判所から会社に対して、申立書の写しや期日呼出状等が郵送されます。

労働審判では、申立てがされた日から40日以内に第1回期日が指定されます。

この第1回期日の日時は、会社の都合も聞かずに一方的に指定されますが、基本的には日時の変更は認められていません。

通常、裁判所から申立書などが届いてから、第1回期日までは、1ヶ月ほどの期間になっています。

(3)企業側による答弁書や証拠の提出

上記書面の郵送の際には、「答弁書催告状」と言われる書面も同封されており、企業側が答弁書の提出を求められるとともに、答弁書の提出締切も記載されています。

おおよそ、企業側に上記書面が届いてから、約3週間で答弁書や証拠の提出が求められることになります

労働審判では、この答弁書の内容を前提にやり取りが進んでいくので、この答弁書の内容が極めて重要になります。

なお、実際の答弁書の提出締切は、初回の労働審判期日の約7日前から約10日前に設定されている印象です。

(4)初回の労働審判期日

労働審判期日は、裁判官1名と労働審判員2名で組織される労働審判委員会が手続きを行っていく形になります。

当事者の出席者としては、申立をした従業員とその代理人弁護士、企業側の担当者とその代理人弁護士になります。

初回期日の審理時間は、2時間から3時間ほどになります。

初回期日では、争点を整理した上で、裁判官や労働審判員から各当事者に対して、質問をしていくことになります。

既に提出済みの答弁書の内容と、初回期日での質問に対する企業側の回答で、解決の大体の方向性が決まるため、初回期日に向けてしっかり準備をすることが重要です。

(5)第2回及び第3回目の労働審判期日

第2回目と第3回目の期日では、主として、解決に向けての話し合いが進められていくことになります。

この話し合いがまとまれば、調停が成立し、手続きが終了することになります。

話し合いの方法としては、裁判所主導型で調停案が出されてそれを双方が検討していく方法と、当事者双方の解決案への希望を裁判所が間に入って調整していく方法の2パターンがあります。

裁判官によっても調停のまとめ方は異なりますが、印象としては、まずは当事者双方の解決への希望を聞いて、当事者主導では溝が埋まらなさそうな時は、裁判所主導型に切り替えて、調停案が出されるイメージです。

(6)労働審判

話し合いがまとまらなければ、各当事者の主張等を踏まえて、労働審判委員会(裁判所)が労働審判を出すことになります。労働審判とは、訴訟の判決のようなものです。

労働審判に対して、当事者から、2週間以内に異議の申し立てがなければ、労働審判は確定します。労働審判が確定すれば、従業員から企業への強制執行の申立もできるようになってしまいます。

対して、労働審判に対して、当事者から2週間以内に異議の申し立てがされれば、労働審判は効力を失い、訴訟手続きに移行することになります。

労働審判の内容に不服があるのであれば、必ず異議の申し立てをしなければなりません。

なお、当事者の話し合いの様子を見て、労働審判を出しても確定することはないと裁判所が判断した場合などには、労働審判が出されないこともあります。

3.労働審判への企業側の対応方法

(1)答弁書を全力で作成する

申立人である従業員側は、時間制限もないため、入念に準備をして「申立書」を作成してきます。

しかも、労働審判の対象となる紛争は、元々、従業員側に有利な案件も多いです。

他方、企業側には答弁書提出までの準備期間は、3週間ほどしか与えられていません。

このように、労働審判は企業側には一見不利な条件ではありますが、企業は答弁書を全力で作成し、自社に有利な証拠は最初に出しきる必要があります。

なぜなら、労働審判においては、この答弁書や証拠の内容によって、裁判所において、どちらの当事者が有利かに関しておおよその心証を取ることになりますし、その後の書面提出や証拠の提出もあまり予定されていないためです。

労働審判では、最初の答弁書と証拠が決定的に重要になりますので、企業側は、答弁書作成に際して入念に準備をすることが必要になります

なお、繁忙期に答弁書の提出が求められ、労働審判を無視したり、答弁書を適当に作成しようと考える企業経営者の方もたまにいらっしゃいます。

しかし、労働審判を無視することは裁判所に喧嘩を売っているに等しいですし、適当な答弁書を提出して、一度決まった裁判所の心証を覆すのは極めて困難ですので、これらは絶対にやめた方がよいです。

弁護士に丸投げをしてでも、答弁書は全力で作成した方がよいです。

(2)初回期日への準備

労働審判の初回期日では、裁判官や労働審判員から各当事者に対して、多数の質問がされます。

そして、答弁書の内容に加えて、この初回期日での質問に対する各当事者の回答で、労働審判委員会(裁判所)が解決の大体の方向性を決めることになります

そのため、初回期日での裁判所からの質問に対する回答の準備をしっかりしておく必要があります。

労働審判では、初回期日まででおおよその決着がつくケースが多いので、ここまでで全力を出し切る必要があります。

(3)良い弁護士に依頼する

上記の通り、労働審判では、答弁書の作成が極めて重要ですが、提出締切までの時間も短いです。また、期日では、裁判所からの口頭での質問に対する回答も求められることになります。

このような労働審判の特性に対応するためには、企業側での労働紛争に慣れている弁護士に依頼することが重要です。

労働審判の申立書が届いた企業の方は、すぐに、良い弁護士を見つけて依頼する必要があるといえるでしょう。

4.最後に

今回は、従業員から労働審判を起こされた際の企業側の取るべき対応について、解説いたしました。

上記の通り、労働審判を起こされた時、企業側は本当に時間がないため、すぐに弁護士に依頼することが重要であると考えています。

当事務所は、1983年の創業以来、中小企業の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。

当然、労働審判についても多数の対応経験を有しており、労働審判に関する企業側の対応方法を熟知していると自負しております。

従業員から労働審判を起こされて、お悩みの事業者の方がおられましたら、お気軽に当事務所までご相談頂ければと思います。

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