労働審判においては、企業側の準備期間が短く、企業側が不利な手続きであると語られることも少なくありません。
では、労働審判における企業側のメリットはないのでしょうか?
今回は、労働審判における企業側のメリットについて、企業側で労働問題に注力している弁護士が解説いたします。労働審判を起こされた経営者の方や、企業担当者の方は、是非参考にしてみてください。
このページの目次
1.紛争を早く解決できる
労働審判における企業側の一番大きなメリットは、紛争を早く解決できることです。
というのも、労働審判は、原則として3回以内の期日で審理を終えることになっており、迅速な解決が目指される手続きです。平均審理期間は81日であり、67%もの事件が申立てから3か月以内に終了しています。
令和4年の司法統計では、労働関係訴訟の平均審理期間は17ヶ月とされており、訴訟と比べて、労働審判がいかに早く紛争を解決できる手続きか、お分かりいただけるかと思います(労働訴訟は本当に時間がかかります。)
紛争の解決が長引けば、企業担当者の人件費というコストがかかる上、中小企業の場合には、経営者の方にとっても精神的な負担となることもあります。また、退職済みの従業員の場合、未払い賃金について、退職後の期間には年14.6%もの遅延損害金が発生するため、期間が伸びれば伸びるほど支払い金額が大幅に増額になってしまう可能性があります。
そのため、紛争を早く解決することは、企業にとって大きなメリットであり、これが労働審判における一番大きなメリットとなります。
2.従業員側の譲歩を引き出しやすい
労働審判においては、調停という話し合いにて事件が終了するケースが、全体の約7割になります。例えば、令和2年の司法統計では調停成立が68.1%、令和元年の司法統計では調停成立が71.2%となっています。
このように、実は労働審判では、多くのケースでは、調停という話し合いによって事件が解決しています。
この調停においては、基本的には、会社側と従業員側が互いに譲歩をして、解決に至るため、従業員側の譲歩が引き出しやすいです。
労働訴訟に移行した場合には、従業員側も徹底抗戦をしてくることが多いですが、従業員側としても、可能な限り事件を早く解決したいとの意向を持っていることが多いため、労働審判では、一定程度の譲歩をしてくることも多いです。
そのため、労働者側の譲歩を引き出しやすいというのも、労働審判における企業側のメリットとなります。
3.付加金をカットできる
付加金とは、未払残業代などを支払わなかった会社に対する制裁で、会社が支払うべき金額と同一金額の支払いを命じられるものです。
要は、裁判所において悪質性が高いと判断した場合に、判決において、未払残業代などを2倍支払うことを命じられる制度となります。
付加金は判決でこれを命じる制度になりますので、労働審判の時には、付加金の支払いが命じられません。
対して、労働審判にて解決せずに、紛争が訴訟に移行した場合には、判決により付加金が命じられる可能性がありますので、この点は頭の片隅にでも置いておいて頂ければと思います。
4.最後に
今回は、労働審判における企業側のメリットについて、解説いたしました。
上記の通り、一番大きなメリットは、紛争を早く解決できることになりますが、企業の状況によっては、他の従業員への波及を防止するために、徹底抗戦を選択する場合もあるかと思います。
その辺りの、個別具体的な事情に基づく決断については、依頼する弁護士と十分にご相談頂ければと思います。
当事務所は、1983年の創業以来、中小企業の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。
当然、労働審判についても多数の対応経験を有しており、労働審判に関する企業側の対応方法を熟知していると自負しております。
従業員から労働審判を起こされて、お悩みの事業者の方がおられましたら、お気軽に当事務所までご相談頂ければと思います。
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